10人が本棚に入れています
本棚に追加
美月が倒れた原因は脳出血だった。救急車で病院に搬送されたが、手の施しようがない状況で、彼女は静かに息を引き取った。
葬式を終え、心の整理をつけた芽衣は学校に行くようになった。以前のような日常に戻りつつあったが、感情は暗くて深い海の底を漂っているようだった。枯れるほど流した涙は、いまだ尽きることなく、美月を想うと視界がにじむ。
そんな状態でする慣れない家事は、時間がかかって仕方がない。料理は焦がすし、洗濯は洗剤を入れ忘れる。
「あー、芽衣に比べて俺は全然ダメダメだー」
家事を終えて、ソファに横たわり目を閉じる。
独り言がやけに大きく聞こえた。
『そんなことない』
ふいに声が聞こえ、目を開けて天井を見る。周囲を注意深く見渡し、物音がしないか耳を澄ませる。
「わ!」
警戒心から大声を出してみた。
「はは、誰もいるわけないよな」
子供のようにおびえた自分が恥ずかしくなった。
『いるわよ』
また聞こえた。キョロキョロと部屋全体を見まわすが誰もいない。
「わー!」
さっきより大きな声を出してみる。
『大声出さないで』
「わ、わ、わああああ!!」
『うるさ~い!』
この日から俺に、美月の声が聞こえるようになった。
最初のコメントを投稿しよう!