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声が聞こえるのは、美月を亡くしたことによるストレスからの幻聴だと思った。
幻聴について調べると、不安や恐怖を感じるらしい。
だけど、俺に聞こえてくる声は
『冷蔵庫、開けっぱなし』
とか
『靴下のストックなら、タンスの三段目』
とか
『これ以上、フライパンを火にかけると焦げる』
といった、いかにも生前の美月が言いそうな内容が聞こえてくるのだ。助けてもらえて、不安や恐怖なんて感じようがない。
声のおかげで、少し余裕が出てきた俺の様子を感じ取ってか、芽衣の笑顔も増えているように思えた。
「俺に聞こえる声の主は、美月、おまえなのか?」
ある日思い切って、声に聞いてみた。
『ええ。衛士さんの未練に引っ張られてこの世に残っちゃった。まあ、私もあなたのことが心配だったし』
「まさか」
あっけらかんとした声に、自然と涙がこぼれていた。
今まで幻聴だと思い込むようにしていた声が、本当に美月で、怖いというより嬉しいという感情がこみあげてきた。姿が見えなくても再び美月と会話ができることが、ただ嬉しくてたまらなかった。
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