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「芽衣がしっかりせざるを得なかったのなら、俺が情けない姿をみせてしまったからだと思う。美月のせいじゃないよ。気丈に振る舞っていたけど、無理させていたのかもしれないな。でもさ、俺もかなりしっかり者になってきたと思わない?」
『ふふ、そうね』
「……だろ?」
冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ソファに座る。
『カーテンくらい閉めたら? カーテン閉めるのが面倒くさいから電気つけてないの?』
「カーテンはわざと開けてるんだよ。足元の間接照明があるから慣れれば平気」
プルタブを引き上げ、ゴクゴクとビールを喉に流し込んだ。
「あのさ、美月」
『なに?』
「俺、美月を俺から解放したいと思ってる」
『解放?』
「うん、今まで美月に助けてもらって感謝してる。本当はずっとこのままそばにいてほしい。でもそれって俺のエゴだって気づいたんだ。本来、美月がいるべき場所はここじゃないんだろ?」
『衛士さん、私がいなくても大丈夫なの?』
「大丈夫だ、ありがとう。もう、大丈夫」
『……頬が濡れてるわよ?』
「これは……ビール、だよ」
『そう? でもやっぱり心配だわ、私――』
「大丈夫だって言ったら、大丈夫なんだよ!!」
『……』
「大声、ごめん」
『……わかった。芽衣のこと、お願いね』
「ああ、任せとけ」
『衛士さん、今までありがとう。じゃあ……私、行くね』
窓が開いていないのに、空気が揺らめいた気がした。
「美月?」
もう美月の声は聞こえない。
美月は、俺のなかから消えた。俺が望んで美月をこの世から消した。輪廻転生があるのなら、新たな人生を送ってほしかったから、この世にとどめておくことはできなかった。
二度目の別れが、こんなにつらいなんて思わなかった。こんな涙でぐしゃぐしゃの姿を見られたら、また心配させてしまう。自分がこんなに泣き虫だなんて思いもしなかったよ。
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