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シリルにとっては初めてのロマネアだった。
美しい街並み、そしてカレア市場の全てがキラキラしたものに見えた。
首都リロイを発ってからはや半月。
ずっと深い森を通り野宿生活をしてきたのだ。
久しぶりの街。人。店。
楽しむなというほうが無理な話だ。
軽く地面を蹴れば、自然と身体が重力を無視したかのように地面を離れる。
木の枝に触れれば季節外れの花が咲く。
人々がざわめき、驚きと好奇の入り混じった視線がシリルに向けられていた。
人々の注目を一身に集めて、満足げな笑みを浮かべ、もう一度飛んでみようかと地面を蹴った、その時。
「……いい加減にしなよ。お仕置きされたいの?」
耳元で聞こえた低い声に、シリルはびくりと立ち止まった。恐る恐る振り向いた先には、呆れ顔のロランの姿があった。
「人前で魔法は使わない約束だろう」
ロランにぐいっと襟元を掴まれて、シリルは首をすくめる。
「大丈夫だよ。魔法だなんて誰も思ってないから。みんな手品だと思ってる」
シリルがおどけた調子で観衆に向かって礼をすれば、周りは大盛り上がりで拍手喝采だった。
「そういうの、屁理屈っていうんだよ」
ロランはそう言いながら、シリル手を差し出した。
シリルは唇を尖らせてロランを見上げたが、すぐに諦めたのか手首から銀色の細いブレスレットを外すとロランに渡した。ロランはすぐさま受け取ったブレスレットを懐にしまう。
魔法の効力を高めることができるブレスレット。
まだ十分魔法を使いこなせないフレデリックが、旅の道で困らないようにとロランが預けていたものだった。
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