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「まったく。油断も隙もない」
ロランはシリルの手首を掴むと、シリルが通ってきた道を逆走するように足早に進んだ。
シリルの手を掴んでいる方とは逆の手を振り、魔法の痕跡を消していく。
「人前で魔法を使ってはいけないと何度も言ったはずだよ」
「ロランだって魔法使うくせに」
シリルは不満げにつぶやいた。
「大半はお前の尻拭いのためだよ。忘却術がどれだけ繊細な魔法かわかってる?」
憎まれ口を叩くシリルを呆れて見やる。
まだシリルでは忘却術は扱えない。人の記憶に介入する忘却術は、その効果は術者の力量によるところが大きい。
「じゃあ、忘却術を教えてよ。僕、できると思うよ」
自分がどんな魔法でも使いこなせると純粋に信じて疑わない無垢な表情で、シリルはそう言ってのけた。
「そうすれば、ロランが忘却術をかけてまわることもしなくてもよくなるでしょう?」
とんでもないことをいう。
思わずため息が出た。
「……術を教える前に、術者としての心得を一から叩き込まなきゃいけないみたいだね」
学問的な知識はもちろん重要だが、魔法を扱うには天性の能力が不可欠だ。シリルにはその能力が備わっている。彼の才能はいつも近くで見ているロランが一番よく理解していた。
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