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翌日の放課後、薄暗い階段を上り重たい扉を押し開けると、眩しいくらいの青空が目に入る。
その予定だった。
だけど、僕の目に飛び込んできたのは、青空ではなく、ツバメだった。
ツバメは、軽やかにステップを踏んでいる。澄み切った青空は脇役にしか見えない。
伸ばした指先や、ターンするたびに揺れる髪が、空に弧を描く。
その美しいラインに見惚れて、慌ててスケッチブックを広げた。
ツバメの姿を追う。
描く。
「踊っているのに、描けるんだ?」
ツバメは軽やかにステップを踏み、ジャンプする。
背中に羽が生えているみたいだ。
「うん。止まってなくても大丈夫。残像が、目の奥に残るから」
「すごいね!」
僕には踊りながら普通に喋れることの方が不思議だったし、すごいと思えた。
僕は、描き続けた。
ツバメは、踊り続けた。
「のっぺらぼう」
僕のスケッチブックを覗き込んだツバメは、わずかに肩を上下させていた。
「うん。クロッキーだから。こうやって全体を捉えてから、細かく描いていく。他の人がどうやって描いているのか知らないけど」
ツバメは清涼飲料水のコマーシャルみたいに、青空に顔を向けて水を飲み「のっぺらぼうなのに、私に見える」と呟いた。
そんな、なんてことのない言葉が、僕には最上級の褒め言葉に聞こえた。
僕が描く絵をもっと見てほしい。
ツバメの絵を描きたい。
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