踊るように描き、描くように踊る

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「私も描いてみたい」 僕たちしかいない教室で、スケッチブックを広げる僕に、ツバメが言った。 「え?」 左利きの僕の手にツバメの右手が重なる。 「描いて。いつも通りに。私ひとりじゃ描けないから」 僕はひんやりしたツバメの手のひらを連れて描く。 僕たちの姿が目に見えたらいいのに。  空を飛ぶ鳥の目から見るように。 今の僕たちの姿を、描いてみたい。 ツバメの右手と僕の左手で。 「こうしてると、溶け合ってひとつになったみたい」 描き上がったクロッキーを眺めながら、ツバメがうっとりした声で呟いた。 「…困る。そんなことになったら、ひとつになんてなったら…キスも出来なくなる」 僕たちは手を重ね合ったままキスをした。 「あの本のおかげだ」 「そうだね。ミラーリングのおかげだね」 ツバメが上履きのかかとを踏まなくても、頰杖をつかなくても、僕がツバメの真似をしなくても、僕たちはお互いに、いつも引き寄せられている。 「水島くん。それってさ、一緒にいないとダメなのかなぁ?」 ツバメは完璧なアラベスクの姿勢で顔だけを僕に向けた。 「ん?」 「例えば…ビールを飲みながら、星を見る。離れたどこかで、同じ時間に。そんな時が重なったら、気持ちが近くなって、出かける場所とか時間とか、そんなことがだんだん近づいて行って、また出会うみたいなこと、あるのかな?」 「ビール飲みながら、星?」 「おかしいかな?勝手な大人のイメージ。思い通りにいかない人生を嘆いて、屋上でビール飲んでそうだもん」 「…そういうことも、あるのかもしれないな。気づかないだけで、出会うことが」 忘れてしまいそうなほど、たわいもない会話だった。
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