透明人間

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消えた。というより、透明人間になったと言った方が良いか。 自分から物に触れる事が出来る。 他者とぶつかっても感触はする。 服もセットで透明化する。 だが、他者から見たら私の事を認識出来なくなったと言うべきか。 まるで道端の石ころになったようなものと言うべきか。 昔、漫画で見たことがあるシチュエーションに、私はなっていた。 透明人間になった私は、全てから解放されたような心境になった。 もう人目ばかり気にしなくて良い。 毎日ニコニコへらへらと気を遣わなくても良い。 倫理的にやらないが、物を盗んだってバレはしないだろう。 町中で変なポーズをしても、叫んでも誰にも気づかれない。 倫理を超えなければ何をしても許される。 だが、最高潮に興奮したのは透明人間になって休日一日を謳歌したまでだった。 出勤の時は地獄だった。 車にも自転車にも気づかれないので、事故の危険性が常にある。 満員電車で誰にも気づかれないから足は何度も踏まれる。 誰も自分を避けないから自分で避けないと行けない。 見えないから、職場に行っても挨拶をしてもスルーされるのは当然。 居る事すら気づかれず、欠勤扱い。 声や匂いすら他者には可視化出来ないようで、一日あれやこれやと頑張ったが、何しても無駄だったのでやがて諦めた。 最悪だ。 これでどうやって働くと言うのか。 お金がなければ生活も出来ない。 生きていく事は最悪出来るが、道を踏み外さねばならなくなる。 とりあえず無断欠勤の扱いだけは嫌なので、今日は風邪で体調が悪かったという連絡をいれたが、そんな小細工がいつまで持つというのか。 最初の高揚感などどこかに消え去り、絶望にうちひしがれていた。 そんな状況で気づかなかったのだが、幼馴染みの瞬から連絡が入っていた。 『良かったら今日、飲みにでも行かない?』と。 そんな気分でもなかったので私は 『行かない。』と送ったが、すぐに返信が返ってきた。 『じゃあ、ご飯だけでも行こうよ。』と。 私はご飯云々はどうでも良かったが、このままでは色々とラチが明かないので、相談をするのも含めて、会う事を了承していた。
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