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約束をしたものの、私の心中は焦っていた。
よくよく考えたら、他者に見えないということは瞬にも見えないという事だ。
何でそんな当たり前の事が認識出来てなかったのか。
この状況では瞬にも認識されず、目の前にいるのに電話やメールで連絡を取らないといけない。
そう思っていたのだが、
「…由香ちゃん、久しぶり。」
瞬はしっかりと私を見て、淡い笑顔を見せた。
久しぶりに会って、そういえばこういう感じだった。と思い出す。
小学生の頃はしょうもない下ネタで爆笑していた瞬。
成長していくにつれ、妙にミステリアスで大人びた雰囲気を纏った『いけすかない奴』になっていった。
学生の頃も、席はなぜかいつも近いし、事あるごとに同じグループや委員会になる事も非常に多く、腐れ縁としか言いようがない存在だった。
瞬が幼馴染みってだけで周囲から噂され、不思議と縁もなく、今まで彼氏も出来なかった。
だんだん色々と思い出してきて、腹立たしくなってきた。
「…久しぶり。と言うより、瞬には私の事が見えるんだね?」
「…どういう事かな。」
不思議そうな瞬に、私は店に向かいがてら現状を打ち明けていた。
「つまり私は今、他の人から見たら透明人間で、瞬は一人で喋ってるヤバい人って事。」
「はは、それは愉快だね。」
店に入りながら瞬が笑う。
店員が人数確認の為にやってくる。
「一名様でよろしいですか?」
瞬が私をチラリと見た。
「確かに本当に見えてないんだね。」
小声でそんな事を言いながら、瞬は『二人です。』と訂正する。
私と瞬は席に案内されていた。
「透明人間、か。大変でしょ?
仕事とかどうしたの?」
瞬は周囲から変な目を向けられるが、構わず私に話しかける。
「こんな感じで、誰にも気づかれなかったんだよ。
コンビニやスーパーに行っても店員さんには認識されないから、セルフでどうにか買い物したり。
…どうして瞬にだけ見えてるんだろう。」
「俺は由香ちゃんをよく見てるからだろうね。」
「…え?そういう問題なの?」
「そうかもしれないよ。
俺は昔から由香ちゃんの事なら、何でも知ってるから。」
瞬はさらりと言う。
そういう事を普通に言ってしまう、余裕な態度が妙にいけすかないのだ。
「なにそれ。昔からの幼馴染みで腐れ縁なだけじゃん。」
「うん。今はね。」
今日はこんな一日だから私は当然のように酒を入れて、現実逃避をしていた。
だからさらりと言う瞬の言葉を軽く流す。
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