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sideしほり 家族 【一部修正しました】
「家族とは、そういう事はしないよね」
娘の絵茉が二歳になり。
そろそろ絵茉に妹か弟をって考えていた私に夫の陽人は言った。
「どういう意味?家族には、なったよ。だけど、私達……」
「家族とキスやエッチはしないだろ?しほりは、お義父さんとするの?」
「何で、お父さんが出てくるのよ」
「そういう事だから……」
「どういう事よ」
「もう、明日早いから寝るわ。じゃ、おやすみ」
陽人の言葉に私はボロボロと泣く。
「家族にはできない」その言葉が頭の中を流れていた。
それと同時に別の誰かが出来たのではないかという言葉も流れる。
「まさか。そんなはずないわよね」
口に出して言ってみるとますます現実味を帯びた気がした。
この二年。
キスはもちろん、その先にすら進んでいない。
最初は、絵茉を産んだ私を気遣ってくれているのだと思っていた。
けれど……。
絵茉が一歳になり卒乳して、私が仕事に復帰した時にも、そろそろ二人目をって話しになったのだけど……。
その時も、私は陽人に「今は、忙しくてそれどころじゃないんだ」と断られた。
忙しいなら仕方ないと思ってはいたけれど……。
陽人の言う【忙しい】は、もう落ち着いたんじゃないの?
私は、寝室に入り陽人のスマホを取る。
まだ、絵茉の夜泣きが度々起こるので私達は別々の場所で寝ていた。
暗証番号は、【0304】
絵茉の誕生日。
解除されたロックを開き。
私は、スマホのメッセージアプリを開く。
メッセージを確認していくと、怪しいものを見つけた。
【栄野田コウキ】
男なのか女なのか名前だけではわからない相手。
私は、栄野田コウキのメッセージを確認する。
【家族とは、もうそういうの出来ないだろ?】
【わかる、わかる。俺も、もう無理だわ】
【ってかさ、朝活しない?明日、朝六時に【バンビ】って喫茶店。タマゴサンドがうまいのよ】
【いいね。俺も、食べたいわ。タマゴサンド】
【じゃあ、明日六時に……】
男だったのかと少し安心しながらスマホを置く。
お互いに家族とは出来ないと思っているようだから、仲間が出来て陽人は嬉しいのだろうか?
私は、陽人のスマホをサイドテーブルに置いた。
寝室から出て、子供部屋に入る。
私は今、娘の絵茉と二人で寝ている。
明日の朝の六時……。
絵茉を置いてはいけない。
でも、この機会を逃したら……。
男同士だからって浮気はないと言える?
私は、母に連絡する。
母は、毎朝必ず朝の五時に起きているからだ。
「明日。別にいいけど、何時?」
「朝の六時なんだけど……」
「えっ?!六時。明日、しほりは、休みじゃないの?」
「休みだよ。どうしても行きたい所があるのよ」
「朝の六時に?まぁーー。わかったわ」
「ごめんね、お母さん」
母の家は、私達の家から五分程歩いた先にある。
朝の六時に娘が孫を預けに行くと言えば驚くのは当たり前な事。
でも、明日を逃せば……。
次は、いつかわからない。
だからこそ、私は確認しに行かなくちゃいけない。
翌日、私は朝の五時には目が覚めた。
「今日の絵茉は大人しいね」
いつの間にか目覚めていた絵茉は、ベビーベッドの中でちょこんと座っている。
私は、絵茉を抱いてリビングに行く。
「ママ、ママ」
「おはよう」
「おーよ」
最近は、言葉を少しずつ覚えてくれて、それが堪らなく嬉しい。
「おはよう」
「おはよう、朝ご飯は?」
「今日は、いいわ。五時半には出るし」
「そう。わかった」
私は、冷凍している絵茉の離乳食を解凍する。
いつも、陽人は七時までに出社をする。
だから私達は、五時半に朝ご飯を済ませていた。
それは、結婚した時からの陽人の要望だった。
【朝ご飯は、早く済ませて暫くゆっくりしてから仕事に行きたい】と……。
最初は、五時に起きるのは眠くて堪らなかったけれど……。
十年目を迎えた今は余裕だ。
二十三歳で結婚して、三十三歳でママになった。
思い描いていた理想とは少し違うけれど……。
私は、ずっと幸せな日々に感謝している。
だからこそ、今日【バンビ】という店に行き、夫を見に行かないといけない。
「じゃあ、行くよ」
「いってらっしゃい。今日は、早い?」
「いつも通りだよ。絵茉、また後でな」
「バーバー」
「行ってきます」
私は、夫を見送り。
絵茉に朝ご飯を食べさせる。
「じゃあ、絵茉。ばぁばとじぃじに会いに行こうね」
スティックのパンを一本かじりながら洗い物を済ませた。
荷物を用意して、絵茉を着替えさせて、私も服を着替えて家を出る。
「おはよう。お母さん、よろしくね」
「あんた、何よ。その格好」
「えっ?別に何もないわよ」
「全身真っ黒じゃない。それに何、こんなキャップまで被って。どこ行くつもり?」
「友達と朝ご飯食べるだけよ」
「朝ご飯って、朝の6時に夫と小さな子供がいる相手を誘うなんて非常識な友達ね」
「お説教は、帰ってから聞くから。じゃあ、絵茉をよろしくね」
「待って、しほり」
私は、母の言葉を聞かずに出て行く。
確かに母の言う通り、そんな友達がいたら非常識だ。
でも、私は友達に会いに行くわけじゃない。
証拠がいなくなってしまわないように急いで走る。
駅前にある【バンビ】は、タマゴサンドが有名。
六時五分に私は【バンビ】についた。
「いらっしゃいませ。店内で召し上がりますか?」
「持ち帰りで……」
朝の五時半に開店するバンビは、開店と同時に列が出来ている。
私の順番が回ってきたのは、六時十五分。
陽人と栄野田コウキは、二つ前の順番に並んでいた。
【栄野田コウキ】は、どう見ても男。
私は、少しガッカリした。
タマゴサンドとカフェオレを受け取った私は店を出る。
陽人と【栄野田コウキ】は、一緒に並んで私の前を歩いている。
二人とは、ほどよい距離感が保たれているせいで、会話は全くこちらに聞こえてこない。
暫く歩いて行くと、二人は公園へと入って行く。
私も、見失わないようにあとをつけて入る。
「あそこに座るか」
「ああ」
二人は、ベンチを指差して笑う。
私は、バレないようにそのベンチの近くに行った。
二人の会話を聞きたかった私は、バレたら、バレた時だと開き直りながらさらにベンチに近づき。
ベンチの後ろにしゃがみ込んだ。
後ろにいる私を気にする事なく二人は、朝食を食べ始める。
「コウキの奥さんはどう?」
「子供が欲しいって迫ってくるんだけど無理なんだよな」
「わかる、わかる。もう、家族になってるもんな」
「そうなんだよ。だから、嫁を抱こうとしても萎えるんだよなーー。うまくいかない」
「それ、俺もだわ」
朝から下らない話を聞きにきただけなのかと私はガッカリしていた。
こんな会話が続くのなら、もう帰ろうかと立ち上がった時だった。
「陽人……今日はどうする?」
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