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side夕貴 【コウキとの日々】
しほりさんの言葉を聞いて、私はコウキを信じていた日々を思い出した。
コウキと過ごした日々は、今でも幸せだって言える。
だけど……。
もしかしたら、コウキは幸せじゃなかったんじゃないだろうか?
コウキは、本当は私じゃない誰かと一緒になりたかったんじゃないだろうか?
私のワガママにコウキが付き合ってくれただけだったんじゃないのかな……。
会社に向かう車に乗り込み、私は、一番幸せだったあの日を思い出していた。
・
・
・
「コウキは、子供欲しいと思う?」
「どうしたの?急に……」
「妊娠したら、いくら社長だからって言っても育休とか使うから収入が減るじゃない。それでも、コウキはいいのかな?って思って」
結婚して、2年目。
私は、この頃コウキの愛を少しだけ疑っていた。
私の収入がなくなれば、コウキは愛してくれないんじゃないかって思ったのだ。
コウキも今までの男達と同じで、栄野田の娘である私の財産が欲しいのだと……。
「産後とかって大変だって聞くし……。これから先も、元気でいて欲しいから夕貴にはゆっくり休んで欲しいな。収入が減るなら、俺がその分カバーするからさ」
疑った私が馬鹿だった。
コウキは、今までの男達とは違う事がハッキリとわかった。
「どうした?目痛い?」
「あっ……ホコリが入ったみたい」
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
やっぱり、私はコウキが好き。
コウキと結婚してよかった。
でも……ずっと気がかりな事があって……。
「コウキ……。お母様とお父様と晩御飯一緒に食べるの嫌でしょ?」
「どうして?」
「だって、お母様はいつも……」
「俺は、夕貴のご両親嫌いじゃないよ。二人とも夕貴を愛しているけど、うまく伝えられないだけなんだと思う」
「そうかしら?ただ、嫌がらせしているようにしか思えないわ。コウキが間に入って嫌な思いしてるでしょ?」
「大丈夫、大丈夫。俺の事は、気にしなくていいって」
優しく頭を撫でられて、私はコウキと一生一緒にいたいと思った。
コウキ以上に私を愛してくれる人などいないと……。
「じゃあ、妊活始めようかなーー」
「夕貴の仕事が落ち着いてからでもいいんだよ」
「そんな事言ってたら、いつまでたっても落ち着かないし……」
「だなーー。夕貴は、社長だからなな」
コウキといるだけで、楽しくて幸せで……。
この時間をずっと大事にしたいって思ってた。
・
・
・
「つきました」
「ありがとう」
まさか、会社につくまでコウキの事を考えるとは思っていなかった。
車から降りて、私は社長室に向かう。
「やっぱり、飾ってあるわよね」
部屋に入り薔薇の花に触る。
「いたっ……」
花屋さんが切り忘れた若いトゲが指先をさした。
「コウキは、結婚したくなかったんだよね……」
指先に膨らんだ血を見つめながら呟いていた。
コウキは、私を好きじゃなかったんじゃないだろうか?
可哀想だって思ったから、私と結婚してくれたんじゃないの?
だって、コウキは男の人が好きだったんだから……。
机の引き出しから、ティッシュを取り出す。
しほりさんの旦那さんに愛を囁いているコウキは、幸せそうだった。
やっぱり、コウキは男の人と一緒になりたかったんだ。
でも、それなら何故……。
私と結婚したの?
私とそうなれたの?
普通は、男が好きならなれないんじゃないの……。
私の事、嫌いじゃなかったの?
だから、そうなれた?
考えれば考えるほどわからない。
コウキに会って、本当の事を聞きたい。
もし、聞けて好きじゃなかったと言われたら……。
私は、立ち直れる?
「やっぱり、考えるのはやめよう」
直接聞いて傷つくくらいなら……。
コウキは、それなりに幸せだったぐらいに思ってる方がいい。
それで、十分。
言い聞かせたのは、これ以上傷つけられたくなかったから……。
引き出しの中に、結婚式の写真が入っている。
二人とも幸せそうに笑っていた。
たぶん、大丈夫。
コウキもこの時は幸せだったんだ。
きっと……。
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