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高校生の始まり
桜が満開になる頃、私立才華学園では入学式が挙行されていた。
「春の息吹が感じられる今日、才華学園に入学できたこと、大変嬉しく思います───」
新入生代表として舞台に登壇しているのは虹野夏輝。
すらりと伸びた長い手足、色艶のいい黒髪、雪の如く白く綺麗な肌、宝石のような瑠璃色の瞳を縁取っている長いまつ毛、鼻筋の通った鼻、桃の色をのせた形のいい唇。どこから見ても非の打ち所がないほどの青年。そんな彼はこの学園の入学試験を1位で通過し、今300名ほどの新入生とその親に見られながら、新入生代表挨拶を行なっている。
この場にいる誰もが見惚れるほどの美貌を持つ彼は真面目に挨拶を行なっているかと思えば、心の中では全く違うことを考えていた。
(眠気がすごい。夜遅くまでマンガ読みすぎたせいだ。映画が公開されたから見る前にその部分だけ読みたかったのに止まれずに最後まで読んでから寝てしまった。朝になって後悔した、寝足りない)
少し前に人気バレー漫画の映画が公開され、その漫画を夜中に読み始めたところ、読むことをやめることができず、最後まで読み切ってから眠りについた。いつもは8時間睡眠だが、今日は3時間しか眠れていない。それは眠たいはずだ。
「──以上をもちまして新入生代表挨拶とさせていただきます」
内心では眠たいと思っていることを隠しながら挨拶を終えた。
そう言い一礼してから中央の階段から降壇し、自分の席へと戻る。
眠気に耐え、あくびが出そうになるのを耐えて、これから寝ないようにするにはどうするかと悩みに悩み、憂いを帯びた表情をしていたことを彼は知らない。
彼のそんな表情に射抜かれた者がいたことも、そんな彼に嫉妬を滲ませつつも見惚れる者がいたことも、自分に恋人がいることを忘れて頬を赤く染めて見惚れるものもいたことを彼は知る由もなかった。
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