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〜side 凌牙(夏輝の父)〜
挨拶のために舞台に続く階段を登る息子を見つめる。
まだ小さいと思っていた我が子が高校生になり、ここにいる大勢の生徒の代表として舞台に立っていることを誇りに思いつつ、彼女とここにいられたらという叶うはずもない願いを抱いている自身を恨めしく思う。
(やめろ、その願いは叶わない。今更そんなこと思ったって無駄だ。)
はあ、と小さく短く息をつく。
大きくなったな、夏輝。
お前は俺を救ったんだ。なんて言ったら鼻で笑われそうだから言わないが。
彼女が家を出た日、
呆然としてなんの気力も出なかった日、
幸せな日々は続いてくれないのかと絶望を味わった日、
俺の周りから彼女がなくなった日、
無邪気に俺に手を伸ばしてくるお前の姿に、
満面の笑みを浮かべながら俺に手を伸ばしてくるお前に、
涙を流した俺を慰めるように頬を叩くお前の姿に、
俺は救われたんだ。お前のおかげで立ち直れた。
(あんなに小さかったのに、もうあんなにデカくなっちまった。最近は可愛げもなくなってきたし、思春期だからか?)
大きくなろうとも、少し冷たくされても彼の生きる理由が息子だということは変わりはしない。
でも、
叶うのなら
もう一度
彼女に会いたい。会わせてやりたい。
話せなくてもいい、ただ一目見るだけでいい、
神でも仏でもなんでもいいから
───────彼女に会わせてくれないか
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