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夜会
――――国王陛下から謝罪を受けて以来の王城、そして夜会の開かれるパーティーホールである。
「うわぁ……住む世界が違う」
「やっぱ帰るかー」
そしてうんうんと頷くキース。しかしキースの着こなしは着こなしで見事と言わなくないほどに、貴族っぽいのだが。
俺もイザベルさんに夜会用のスーツを着せてもらったが……やはり根は庶民。場違いではないかと萎縮してしまう。
「そんじゃ、シュカ。今夜は帰ってイイコトするか」
イイコト……って、キースが言うなら決まっているのだが、まぁここにいるよりはいいだろ。
「うん、分かった」
そう、頷いたのだが、横から手が出てきて制してくる。
「いや、ダメだろう、それは……!!帰るな帰るな!」
慌てて駆け付けたグレンさんであった。
「そうですよ、キースさん。俺も巻き添えになったんですから、ひとりだけとんずらしない!」
しかも、シエルまでグレンさんと出席!?
「シエルも来てたんだ」
「うん……まぁ、グレンに頼まれて」
シエルが不満げにグレンさんを見やる。
「だ……だってな……俺は未婚だし……その、色々と寄ってくるんだ」
ギルマスでしかも王弟殿下なグレンさんだもの。そりゃぁ、優良物件だもんなぁ……?
でも、シエルと来たのはやっぱり……。
「それに……その、シエルのその格好もいつもと違って……いいと思う」
絶対シエルと来たかっただけだろう、このひと。
いつもキリッとしているグレンさんが、シエルの装いをちらちら見ながら顔を赤らめている。
「そ、そう……?それならいいけど……隣国のやつらはいないよな……?」
シエルがキョロキョロと周りを確かめている。
確か以前隣国で色々とあったんだっけ。こう言う場だとかち合う可能性もあるのだ。シエルも大変だな。
「今日は国内向けの夜会だし、国外からの参加者がいたとしても、シエルに手を出すようなやからは弾いている」
「それならいいんだけど」
あれ……?グレンさんが参加者の選別をしていたのか……?
「ならついでに俺らも弾け」
すかさずキースが告げれば。
「主役はお前たちなんだから、弾ける分けないだろう」
と、グレンさんから呆れがちに告げられる。
「いいから、陛下に挨拶に行ってこい。その後は公爵や俺も上手くやるから……料理でも食べていていいから」
「わぁったよ……もう、しゃぁねぇなぁ」
それでもグレンさんの言う通り、渋々挨拶に行くところは、律儀なんだよなぁ。
「ほら、シュカ。おいで」
キースが俺に腕を掴むように指示してきたので。
両腕でギュッと。
「……」
あれ……?キースが驚いたように俺を見下ろしている……?何か、間違っていただろうか。
「そんなかわいいことされたら、グレンが何を言おうと、何がなんでも今すぐ家に連れて帰るぞ」
え……えぇ――――っ!?何故そうなるっ!!
しかしそれもすかさずグレンさんが阻止する。
「こらこら、帰るな帰るな。ほら、シエル」
グレンさんがシエルに声を掛ければ、グレンさんが差し出した腕にシエルが片手をそっと添える。
そ……それは……っ!ファンタジーなエンターテイメントで何となく見たことあるエスコート!そ、そっか……!それだったのか!
「……はい」
慌てて直してシエルの真似をして、片手でキースの腕に手を添える。
「何だ、やめちまうのか?」
「だ……だって……っ」
キースったら帰ろうとするし、目を反らせばパーティー会場の物陰に引きずり込んで……とかしそうだもん!キースだもん!
「ん?何想像したの?」
キースが嫌に色気のある声で、囁いてくる。ひぁ……っ!?
「な、何でもないから……っ!それより、ほかにもマナーとか……」
「俺に任せてくれりゃぁいい」
そ……そう……なの……?
うぅ、そう言うところは頼りになるんだから。……隙あらばカーテンの裏とかに引きずり込んでエロいことしてきそうなのに~~っ!
しかし、失敗はしたくないから。
キースが先導してくれるのに、遅れないように脚を運ぶが、キースはキースで俺が歩きやすいように歩みを進めてくれるのだ。
そんなところすら、嬉しいなぁ。――――とは言え、国王陛下への挨拶は緊張する。
しかも今回は、王妃さまもいらして、キースがさくさくと挨拶の言葉を述べていく。
キースは……緊張しないのかな……?何から何まですごいんだから。
「ほら、シュカ」
「え……っ」
不意に、キースに呼ばれていることに気が付く。
「何だ、俺のことがそんなに好きか?嬉しいな」
「……っ」
いや、その……っ。す……好きだけど、そう言うんじゃなくて……っ!
「とても仲がいいのねぇ。微笑ましいわ」
王妃さまが微笑んでくださる。
「これからも、夫夫仲良く過ごしてくれ」
そう、陛下に声をかけられ、キースが『もちろんです』とさらりと答えて礼をするのに、俺も合わせる。
そうして陛下と王妃さまの前を後にすれば、キースが声をかけてくれる。
「これで挨拶は終わりだ。あとはうまいもん食って帰ろうな」
「う、うんっ」
その優しい笑みに、安心させられる。
それにキースが案内してくれた、フードブースには、たくさんの料理が並んでいる。
「デザートもあるからな」
「それは楽しみだな」
見たことのない料理もあるけれど、聞けばキースがすらすらと答えてくれて、周りの出席者まで感心してるんだけど……!
冒険者をやってはいるけれど、やっぱり元々は貴族のお坊ちゃん育ちなのかなぁ。
「あーむっ」
お肉料理も、サラダも。
「美味しいね」
「そりゃぁ、城のごちそうだからな。国でも指折りのシェフがこしらえているからな」
「やっぱりそうなんだ」
城だもんなぁ。
「でも俺はシュカの手料理が一番好きだぜ」
「……っ」
いや、もう……!さらりとそんなことを言うんだから。もう、キースったら……っ。
「キースだってうまいじゃん」
一人暮らしが長かったお陰か、キースも料理を作れる。料理を作るのは俺が多いけど、キースも作ってくれるし、2人で作ることもあるのだ。
「じゃ、両想いだな」
「それは元々だろ?」
「シュカったら、さらっと嬉しいこと言ってくれるな」
そう言うと、キースがこめかみに口付けを落としてくれる。
「キースったら、こんなところでっ」
「だからだろ?見せつけてやんねぇと」
そう言って愛おしそうに笑う。
んもぅ、周りからも黄色い声が響いて来てるって!またグレンさんに怒られるよっ!
しかし、その黄色い声が突如としてどよめきが起きる。
「何だ……?」
「招かれざる客か?」
キースが怪訝そうにそのどよめきの方向を見やる。そして俺もその方向を見て、ビクンと肩を震わせる。
「見付けたぞ!シュカ!お前さえ捕まえれば、私は再び復権できる!」
突然何を言い出すのかと思えば、それは例の第2王子だったのだ。つまりは俺を追い出した張本人である。
「何を言って……っ」
呆然としながら口を開くが、キースも隣にいると言うのに、第2王子は止まらない。
「何って……是が非でも私を抱かせるんだ……!神子を伴侶にする……!これで全てが解決する……!」
ん……?抱かせる……?
「お前受けかよ――――っ!?」
まさかのコイツ、受けなの!?そうなのぉっ!?
「それが何だ」
「何だじゃねぇよ!俺だって受けだ……っ!」
「は?年上なんだから抱いたらどうだ!」
「知らんがな……っ!お前年上にどんな妄想抱いてんの!世の中にはな……年上受けに萌える民もいるんだよ!!若人攻め×おっさん受けなんてテンプレだろうがっ!!」
うちは年上攻めだけどな!?
「何……っ、だと……っ!?」
いやお前、マジで知らんかったのか!?正気かよ……っ!
「とにかく、俺はもう人夫だっての!!」
「その通りだ」
そして後押ししてくれる声に、安堵する。
「キー……」
その愛しい伴侶の名を呼ぼうとしたのだが……。
「俺のシュカを奪おうとするなら……殺すぞ」
ひいぃっ!?まさに静かなる大激怒!?まるで竜の翼で俺を包み込むように抱き締めたキースは……抑揚のない声で第2王子を睨み付けた。
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