夫夫(ふうふ)

1/1
前へ
/19ページ
次へ

夫夫(ふうふ)

――――キースとの生活が始まって早3日。 腰は相変わらず落ちていたものの、キースが仕事に行っている間は、キースが食事と飲み物を用意して行ってくれるので快適だ。あとトイレもそばにある。 キースが冒険者と言うのは本当なようで、時には早朝に出かけ、昼から出かけることはあれど、必ず夕方には帰ってきてくれて、ベッドの上でまたでろあま生活が始まる。 そんな生活をしつつ……。 ひとつ、気がかりなことがある。 「その、キース」 「うん……?」 「その、言ってなかったことがあって……」 「何だ?」 くぅ……っ、華麗に顎くい決めてくるんだから、相変わらずこの男は……っ! 「俺……違う世界からこの世界に召喚されてきたんだけど……とは言え捨てられたんだけども。俺と結婚しても……大丈夫なのか?」 「異世界……召喚……ふぅん?」 キースは少し考え込んだようだが。 「構わねぇよ。シュカはもう俺の(つま)だ。絶対逃がさねぇから」 ニッと吊り上げる口角は相変わらず妖艶で。 「そ……そう……?」 やっと腰が上がったと思ったのに……何となくキースの目がギラリと光った気がしてびくんとなる。 神子として召喚されつつも、俺はいらない存在。何せ捨てられたのだもの。誰かが何と言うわけでもないよな……? 「手続きは進んでるから、数日中に許可も下りる」 許可が下りる……?何だか気になる言い方だな。けどこの国の結婚にも……色々とあるのかな……?それともキースが貴族っぽいからだろうか。しかし。 「本当に……夫夫(ふうふ)になるのか……?」 なっていいのか……? この世界は男女だけではなく男同士でも婚姻可能で、望めば子まで作れると言うとんでもない世界だった。 ――――それすらも知らないうちに、追い出されたからなぁ。ほんとすぐ、一文無しでだ。 だがこうしてキースにナンパされて……ワンナイトラブをキメる予定が……。何故か今は、キースと同棲状態。ほかに行くところもなければ金もない。ひとりで生きていくすべもない。キースに教えられてばかりだ。だけど……キースとの……は悪くはない。と言うか本人が言った通り、ほんとに絶倫……以上!! 「当たり前だろ……?何、照れてんのか?」 ふーあーっ!?顔が近ぇ――――っ!! しかも好みの顔が目と鼻の先にあるんだぞ!?俺の心臓もバクバクだわっ!! 「いや……その」 だって結婚だし。まさか異世界で男と結婚するだなんて思わなかったし。できるとも思ってなかったし……! 「あと……その、キース」 「ん?欲しいもんがあんなら何でも買ってやるぞ?」 ぐぅ、何このさらっと出してくるスパダリは……っ! 「……その」 欲しいもの……か。毎日選り取り見取りな上にこの豪勢な部屋、それから食事と。 ほかに望めと言われてもなぁ。 あ……そうだ。 「あの、キース。俺、文字が読めるようになりたいんだ」 やはり文字が読めないと言うのは何かと不便だ。 「文字……?なら何か学習用の本でも持ってくるか……」 持って……くる? どこから……と思えば。 「書庫行くか」 「書庫?」 そっか。そう言うのがあるよね。この屋敷は何かと広々としていて豪勢だ。迷いそうであまり探検は進んでいないけど。 こじんまりとした書斎みたいなのを想像したのだが……こんな豪邸だ。こじんまりとしているはずがなかった。 そもそも書斎……とは言いがたい場所である。 キースに当たり前とも言うように抱き抱えられ、辿り着いた場所は想像をはるかに超えていたのだから。 「あの……これはさすがに本格的すぎない?」 これだけで図書館とでも言えるような代物である。 モロ図書館まで完備してるこの屋敷、何なの!? しかも内装がなかなかにおしゃれ。吹き抜けの空間には本棚が立ち並び、ソファーやテーブルなどのリラックススペースもさながら。壁には上までずらっと敷き詰められた本の数々! こう言うの地球の歴史ある図書館とかになかったっけ!?しかも……。 「あの……上の本はどうとるの……?」 見たところ梯子などはない。 「飛ぶ。あとは魔法」 と……飛ぶ……っ!キースが翼を持っているが故のこの書庫の仕様!しかも……魔法か。 「俺にも魔法、使えるの?」 「そりゃぁ……魔力はある」 そう……なのか。 神子と言われたけど捨てられたから、たいしたことないと思ってた。むしろ俺にも魔力があるなんて思っても見なかったのだ。 「生活魔法くらいなら、覚えればすぐだ」 そう……なのかな……? そうしているうちにもキースが目当てのものを見つけたのか、魔法を使って棚から本を引き寄せる。わぁ、本当に魔法だ……! 「ここら辺がいいだろう」 「あ、ありがと……」 「俺がつきっきりで教えてやるからな?」 「ふぇっ!?」 そりゃぁ教えてもらえるのはありがたいけれど……つ、つきっきりで……? そして本当につきっきりで……と言うか終始腰を抱き寄せられながら耳元でエロい声で解説されたのは……余談である。 ――――そしてその後、結婚の許可が無事に下りたと連絡があった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

120人が本棚に入れています
本棚に追加