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冒険者ギルド
――――ここは冒険者ギルドである。
何度かキースに連れてきてもらったことがあるし、邸からも割りと近い場所にある。
けど……。
「初めてひとりで来たなぁ……」
と言うのも、キースから冒険者ギルドにお迎えに来てと言うメッセージをもらってしまったからである。
ギルドの外観は、よくある異世界ファンタジーの大きな商館のようである。
だが明らかに違うのが、行き交うひとびとが、鎧や武具を身に付けていたり、武器を身に付けていたりと、冒険者仕様なところである。
恐そうな顔のひともいるから……迷惑にならないように気を付けなくちゃ。
トンッ
――――って、言ってる側からぁっ!?しかもぶつかったのは大柄な冒険者!?部分鎧ではあるが、頑強そうな装備。はね飛ばされて思わず尻餅を付いてしまった!
まずいまずい!若い頃は小意気に『なんじゃわれどこ見とんじゃぁ』していたヤンキー時代もあったものの、それは単なる若気の至り。そもそも異世界の超絶冒険者たちに、俺が叶うはずないじゃんんんんっ!!!
「……あの、ごめ……っ」
「す、すみませんでしたぁぁぁぁ~~~~っ!!!」
いーや、ちょっと待って待って待って……っ!大柄な冒険者の方が俺の前で土下座してきたんだけどこれは何――――っ!?
「いや、あの、た……立って……」
欲しいんですが……俺の首は痛くなるだろうけど……っ!
「そんなわけには参りません!キースさんに殺されまするううぅ――――っ!!!」
はい――――っ!?
「いや、そんなことはないかと……」
「あるよな……?」
「あり得る」
「キースさんならやりかねない」
いやいや周りの冒険者ぁっ!?マジなの!?ねぇそれマジなのおおぉっ!?冒険者って血の気の多いイメージがあったけど。
それとは正反対そうな律儀な大柄の冒険者。しかしエロエロな上に周りから血の気が多そうな見解を述べられるキース。
まぁ、ひとによりけりなんだろうが……。
「俺は大丈夫ですから……!それに怪我もないですし……あれ、親指の下ちょっと切っちゃった」
尖った小石にでも当たったんだろうか……?
「あ゛ぁ――――――――っ!俺には妻も子もいるのにいいぃぃっ!せめて……せめて遺言を書く時間くらいわぁぁぁっ!!」
「いや、遺言っておいいいいぃっ!!!」
大げさすぎるだろぉ、それぇっ!!
「せめて……せめて家族には責任は……っ」
「いや、ご家族にもあなたにも責任なんてないですし……これくらい唾つけとけば……」
あれ、傷もう塞がってる……?でも血は付いている……。
「うおおおぉいっ!誰か!ヒーラー連れてこい!」
「ありったけだ!バフ専門の黒魔法使いでもいい!」
「最悪街が1個吹き飛ぶぞおおおぉぉっ!!!」
いやいやいや、周りの冒険者ぁっ!いくらなんでも大げさだっての……っ!
「いや……砂ついたとこ洗えればそれでいいんですけど……」
あと、血ぃついたとこ……。
「うおおおぉぉぉっ!洗浄魔法極大照射――――っ!!!」
その時血走ったヒーラーが向かってくる……っ!
「いや゛――――――っ!?何か恐いいいぃっ!?――――って、いい加減にせいやぁっ!お前らぁっ!ヤキいれっぞコラァっ!そこ、正座ぁっ!!」
『はいいいいぃぃぃっ!!』
あ、ヤベ。久々に若気の至りが入ってしまったが、周りの冒険者たちがおとなしく正座したのでいいか。
そこの噴水で血を洗い流し、砂をほろえばこれで完了っと。
「あ……あの……っ」
あ、先ほどの冒険者?
「この件の沙汰は……っ」
あー。それね。
「今回のことは、俺も前を見ていなかったことが原因だし……みんな!此度のことはキースにはナイショな!!」
『はいいいいぃぃぃっ!!』
冒険者たちが雄叫びを上げ、サッカーの試合の前みたいなポーズをキメる中、ようやっと冒険者ギルドの中に脚を踏み入れることができた。
さて、冒険者ギルドの中は割りとキレイである。入ってすぐのホールには、まるでホテルのロビーのような休憩スペースから、冒険者ギルドと言えばなお決まりの受付スペース、買い取りスペースまでしっかりた揃っている。それから簡単な食料品や冒険用の道具や日常雑貨を取り扱う購買。食堂なんかも完備されているらしい。
食堂は夜は酒場になるらしい。
俺はキースが帰ってくるまで、ロビーのソファーで休んでいようっと。
ロビーのソファーに腰掛ければ、ギルドのスタッフだろうか?コーヒーとケーキを出してくれた。
「あの、お代は……」
キースから少しはお小遣いをもらっているとはいえ、無駄遣いするわけにはいかないし。
「こちらはサービスなので無料です」
「そうなんですか」
なら、ありがたくいただきます。
ん……?冒険者ギルドで……コーヒーとケーキ……?
何かよく分からないが、いただけるものならば。ん~っ、このガトーショコラ、美味しいっ!
それからロビーに置いてある雑誌でも見るか。こちらの文字もだいぶ読めるようになったんだよなぁ。
「コーヒーのお代わりはいかがですか?もちろん無料です」
「あ、でしたらお願いします」
「ゴールデンメロンはいかがですか?こちらもサービスです」
「え……?あぁ、はい。いただきます」
サービスならもらわないと失礼だもんな……?郷に入っては郷に従え。現地のものはなるだけいただくのも、仲良くなるための第一歩。
「観劇などはいかがでしょう」
「いや、さすがにそれはいいです」
でも、それは断ってもいいよな……っ!?
明らかにおかしくない!?度ぉ超えてない!?
「ではマッサージはいかがですか?」
「いや、いらないですけど!?」
何で冒険者ギルドのロビーでマッサージサービスがあるんだ!?しかも何かひとが集まって来てる!?
「あのー、みなさん。あんまり構っていらっしゃると、逆にキースさんが嫉妬して大暴れするのでは?」
しかし後方から聞こえた青年の声に、一同ハッとする。
「あの、俺は……コーヒーだけでいいんで。後はキースが帰ってくるの、静かに待てればいいです」
『はいいいいぃぃぃっ!!』
そして何度目かの一同揃っての胸の前に手を当てるポーズ。
ふぅ……やっと静かになったか……。
コーヒーを啜りながら、雑誌に目を通していれば。
「シュ~カっ」
後ろから首に腕を巻き付けてくるのは……。
「キース」
顔を見上げれば、そこにはやはり、キースの顔がある。
「お待たせ」
「うん、お帰り」
よっしゃぁ、今日のミッションは無事コンプリートだな……!
――――そう、思っていたのに。
「あぁ、あと、お前を突き飛ばした冒険者とやたらシュカに魔法照射しようとした冒険者、そのた多数とシュカにやたら話し掛けたギルド職員どもは後でシメておく」
ひぃうっ!?何で知ってんのおおぉっ!?そして明らかにその場が凍り付いたのが分かった。
「いや、やめなさい。イイコにしないと……んー……今日の夕飯作ってやらないぞ?」
これくらいしか思い浮かばなかったのだが……。
「それはヤだ」
案外ちゃんと効いていたようだ。
ギルド内の空気も正常に戻ったようで、何よりだけどな。
――――てかキースってどんだけ恐れられてんだよ……全くもう。
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