言下

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言下

とうとう千倻の最寄駅についた。この駅で降りたのは私だけのようで、自分だけが電車から吐き出されたような気分がした。改札を出たら千倻がいるのだろうか。千倻にあったら、まず何を話そう。なぜ連絡もとらなくなったのか、距離をとったのか。 「汚い感情を持ちたくなかった。」 これはどういう意味だったのか。聞きたい事はたくさんあるのだけど、そこに触れていいのかがわからない。千倻は、大雑把でいいかげんな人間で、細かい事は気にしない人間だと思っていた。事実そんな人間だった。なのに、なぜ急に繊細になってしまったのだろう。あなたは何を怖がっている。私には千倻以外にも友達はいるけど、千倻には私しかいないではないか。 「絢梨!」 改札の外から私を呼ぶ声がした。久しぶりに見る千倻は最後に見た時とあまり変わらなかった。海が見えるこの町で何を言おうと思ってわざわざ私を呼びつけたのか。これからきちんと話してもらわなければなるまい。 「久しぶりね、千倻。」 「ごめんごめん、こんなとこまで呼びつけて。」 別に怒ってないのだけれど、という私の言葉を千倻はスルーして言った。 「やっと答えを見つけたの。」
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