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長時間、電車に揺られていたせいで、乗り過ごしてしまったかもしれない、と焦るがこれは鈍行だと思い出す。千倻の最寄り駅まではそれほど遠い。目の前の乗客が降りてから見えた窓から商店街の看板が覗いた。いつだったか、どこかの商店街で美味しいパン屋を探し歩いていた時に千倻に言われたことを思い出す。
「絢梨の特別は私一人がいい。」
突然言われた一言を私はとても軽く捉えた。
千倻とは異性のタイプの話で盛り上がったことが何度もある。低い声が好き、高い身長が好き、手は骨張っていて血管が少し見えるのが好き。千倻は何度も好きなキャラクターの名前を出しては、その良さをプレゼンしてきた。思い当たるはずがなかった。千倻の突然の言葉の真意など。そんな私の気持ちを全く考えていない千倻はさらに続けた。
「違う、我慢できないんだ。絢梨が笑顔を向ける相手が私以外にもいるのが。」
「どこのメンヘラ彼女のつもり?」
私が言った言葉は軽かった。だから千倻の胸にストンと落ちず、拾われることはない。千倻は何度も言い直す。
「私は、んー、なんて言ったらいいんだろう。友達、親友、、、、じゃ足りない?」
「辞書を引きなさい、辞書を。」
次は千倻に寄り添った発言のつもりだったのだが、これも拾われなかった。もう好きに喋らせておくしかないのだろうか。そう思ったが次の一言で整理はついたらしい。
「私は多分、絢梨が好きなんだ。」
ここで千倻に特大の爆弾を手渡された。爆弾を作った人よりも爆発させた人の方が罪は重い。だけど、この場で私が派手に爆発させても仕方がないのではないか。
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