風上

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多分、千倻はlikeではなくloveの方の意味で好きを使っている。何か反応すべきなのだろうけどなんて反応したらいいのかわからない。これはジェンダーというやつなのではないか、これは何を言っても傷付かれるのではないか、そもそも千倻は異性愛者ではなかったのか。いや、バイセクシャルというやつなのか。私は今のところ男性しか好きになったことがない。ギギギと言いそうなぎこちない振り向き方だったと思う。私は自分の顔が青ざめていくのを感じていた。私は生まれてこのかた、告白されたことすらない。とりあえず千倻の言ったことを反復する。 「千倻は、私が好き。」 「うん、好き。」 「ありがとう。」 復唱してみて聞き間違えではないことだけはわかった。だが、幸いにも千倻からは告白特有の重い空気を感じられなかった。告白には気持ちを受け取ることができない場合、相手を傷つけないように丁重にお断りしないといけない。それに、告白に保留は許されない。たとえそれが前触れなく訪れる災害のようなものでも。告白とは一種の脅迫なのではないか。そう思いながらこの状況をどう切り抜けようか考えていた。だがよくよく考えると千倻はいつもと同じように考えついたことを話しながら整理していただけなのだろう、と思い立つ。だけど次の一言で、彼女は一気に重くて暗い空気をまとった。脅迫とは違う、諦め、絶望。相手にではなくて自分への重い、暗い空気。 「もし私が絢梨に持っている感情が恋慕なら、吐き気がする。」 「なんで?」 千倻がおかしなことを言うのはいつものことだ。だから何かどす黒いものを持っていても今更驚きはしない。だけど、あの時のそれは程度が違った。 「絢梨にそんな汚い感情、持ちたくなかった。」 千倻はその日、別れるまでまともに話をしてくれなかった。以降、千倻は私から距離をとるようになってしまった。だから、今回なぜ彼女が私を呼び出したのか見当もつかないのだ。
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