言下

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「答え。」 よくわからない単語を私は口の中で転がす。前に読んだ小説にある、最愛の人と心中するシーンを思い出した。千倻はホームから少し歩いたところにある海を見つめながら続けた。 「今の私は好きと言う表現しか知らないから絢梨にそういったの。けど、私の中で恋愛というものは汚いもの。」 千倻は愛故のなんたら、という単語に過敏に反応していた。愛の鞭、歪んだ愛、愛故の別れ。どれも自分勝手で、愛はなにかの言い訳でしかないんだ、と。だけれど私にとってそれはどうでもいいこと。私が千倻から受け取った気持ちは汚くなかった。一方的ではなかったから。 「どれだけ考えても、私が絢梨に持ってる感情を肯定するには、絢梨は例外、という答えしか見つからなかった。これは勝手?」 千倻は千倻で苦しんだのだろう。だけど、距離を置かれた私は「はい、そうですか」と素直にいえないし、言いたくない。このまま交通費分だけ観光して帰ろうかとも思ってしまう。私は千倻以外にも大事な人はいるから、少し意地悪しても千倻は離れていかないでしょう? 「なんで急に距離を置いたの?私は傷ついたなぁ。」
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