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クローンの使い道
西園寺家は、当主から生まれたての赤ん坊までかならず一卵性の双子がいる。
ただしくは双子というよりもクローンと呼ぶのが正解だろう。
代々医師の家系の西園寺家には、何故か病弱な子供が多く生まれる。
その為、誰かを跡継ぎにするべく、嫁に来たものや、西園寺家の娘たちは最低でも5人以上の出産を望まれていた。
ただ、誰もがそう簡単に妊娠できるものでもない。
故に21世紀の昔には早くに亡くなってしまったりして後継者問題が勃発することも多かった。
そこで、22世紀に入る頃には、社会的には禁じられているヒトのクローンの培養を病院内でひそかに研究を進め、成功させるまでに至ったのだ。
まずは、当時の当主の細胞を取り、クローンを作りだした。
遺伝子操作をして、本体の弱い部分はなくし、健康体のクローンを作るのだ。
だが、成長速度が遅いので、クローンが大人になる前に当主は心臓発作を起こし、他人の心臓を移植して息を永らえていた。
クローンがようやく成人の大きさに育った時に、二度目の心臓移植が行われた。
これで、免疫抑制剤の必要もなくなる。
クローンは培養液の中で育ち、培養液から出されるとすぐに心臓を取られて亡くなった。
だが、もともと戸籍にはいないものなので、そのまま医療廃棄物として廃棄されたのだった。
当主のクローンが成功したときから、家族全員の健康なクローンが培養された。
当時妊娠していた嫁の赤ん坊に関しては、直接腹に針を刺し、胎児の細胞を入手し、胎児のクローンを作った。
この時が一番沢山のクローンが作られた時期だった。
それぞれの本体の大きさまで育てられたクローンは、培養液から出され、西園寺家の広い敷地内に建てられたクローンの為の家で、生活を送ることになった。
それからは、胎児一体分のクローンを作ればよいので、研究室の規模は縮小させ、他の医師たちにばれない用、西園寺家の誰かが妊娠する度にクローンの作成が行われて行った。
もとより、身体、特に、心臓が弱い家系の西園寺家の子供達は小さい頃に移植手術を必要とすることもある。
その場合にもその子供と同じ大きさの心臓を持ったクローンがいるので困ることはない。
さすがに心臓を取られてしまってはクローンも生きていられないので、その場合は新たにクローンを作ることになる。そして、本体と同じ大きさまで培養液の中で育てられたクローンはまた、クローンの家に入れられ、元通りの生活を送るのだった。
腎臓や、肝臓移植の場合は、そのまま臓器を取られ、クローンの家に戻される。
そんな事が何年も続いたある時、クローンたちはひっそりと話し合いをした。
健康体に作られた自分たちは、臓器移植のためのペットになっているが、もしかしたら自分たちが本体とそのまま入れ替われば、西園寺家は移植の苦労などしなくて済むだろうに。という内容だった。
たしかに、どうしても移植が間に合わなかった不測の事態に備えて、脳の中身もすべてコピーされているので、入れ替わる準備ができていると言えば、全くその通りなのだ。
本体がまだ若くして亡くなった場合などはクローンが本人の代わりをした例がここ50年間の間に2例ほどあった。
医師の技量も問題なく、クローンは身代わりをしっかりとして過ごしている様に見えた。
クローン家族たちは、クローンの家からひっそりと見ていた。
培養液から出された後は、本体たちと全く同じ食事をとって過ごしている。
何度か、話し合いを持った末に身体の弱い本体を消して、健康な自分達こそが西園寺家の人間として生活するべきではないかと結論が出た。
ある日、クローンたちは考えを行動に移した。
その当時の若先生(30歳)が急な心臓発作で亡くなってしまったので、クローンの若先生が本体の家に住んでいた。
本体には内緒にしていたのだが、何故かクローン同士はテレパシーが使えたので、クローンの家での話し合いの内容を本体の家の若先生のクローンに伝えていた。
若先生のクローンは、病院で簡単に手に入る睡眠薬を本体たちの食事に混ぜて、全員を深く眠らせてから、一人一人に死に至る量の空気を血液中に送り込んだ。
本体は全員肺塞栓を起こし、意識を失い、そのまま亡くなった。
若先生のクローンは、クローンの研究所で働いている人たちに、今後はクローンは使わないことになったから医療廃棄物として処分してくれ。と、本体の遺体を処分させた。
一家に一人くらいクローンが混じっていてもあまり目立たなかったのだが、全員となると問題が起きてしまった。
クローンたちはそのまま本体の家に住み、医師は医師の生活を、子供は学校での生活を、妻たちは主婦としての生活を送ったのだが、周囲の人間たちから、西園寺家の人たちの様子がおかしいからと次々に警察に通報が行った。
警察は西園寺家を訪れ、病院も尋ねた。
そこで、やはり、彼らの異様さに気づき、病院の関係者を徹底的に調べ、禁じられているヒトのクローンを培養していたとの証拠をあげた。
警察はクローンを逮捕するべきか迷ったのだが、ヒトではなくクローンなので、全員を保護という形で警察の管轄である敷地内の、施錠できる一つの家に移した。
クローンたちは、知能的にも行動にも何も問題は無かった。
ただ一つ、人間にしか備わっていない『感情』が無かったのだ。
人形のような、まったく感情のこもらない目で笑顔で話すクローンたちは、人間から見ると明らかに自分達とは異質な不気味な雰囲気を感じたのだった。
せっかく、丈夫なのを言い訳に西園寺家の本体を消して乗っ取ったはずだったのに、何故、自分たちが拘束されるのかは、クローンたちにはどうにもわからなかった。
感情が何なのかは理解できたが、実感できなかったのだ。
西園寺家にいた時とは比べ物にならない粗末な食事で、クローンたちは生きていくことになった。ただ、クローンたちは病気もしないので、長い軟禁生活を送ることとなった。
クローンたちは、せっかく本体を消したのに、徒労に終わったどころか、自分たちを必要とする西園寺家そのものを消してしまったのだった。
【了】
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