好きな食べ物

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好きな食べ物

「好きなおかずはなにかな~?」  悟は幼稚園のかおる先生に聞かれた。  持って来たお弁当を全く食べ進められない悟に何とかお弁当を食べさせようとしてやってきたのだ。  大抵の園児は好きなものをおかずに入れてもらっているので、ニコニコしながらお弁当を食べている。  かおる先生は悟のお弁当を見たが、特に変わったものもなく、幼稚園児の好きそうな小さなハンバーグやから揚げ、プチトマト。コーン。色彩も綺麗だ。   「おにく・・・」  悟が小さな声で答えた。 「そっかぁ。じゃ、から揚げ食べようか。美味しそうだよ~。」 「・・・・」  黙ってしまったが、やはりお腹は空いているのだろう。仕方なくから揚げにフォークを刺して口に運んだ。  思いもかけず、嫌そうな顔をしながら咀嚼して何とか飲み込んだ。 「わ~、偉いねぇ。じゃ、次はハンバーグかな~。」 「もういい。」 「おなかすいちゃうよ?」  悟は黙ったままいきなりかおる先生の腕に噛みついた。 「キャッ」  先生は驚いて悟を離そうとしたが、幼稚園児とは思えない力で噛まれている。 「痛・・たた。」  腕からは血が流れている。  先生は大声をあげると他の園児が驚くと思い、悟を抱きかかえたまま部屋を出て、職員室へ向かった。  職員室では園長が食事中だったが、子供を見ているべき保育士が入ってきたので驚いた。 「どうしたんです?」 「園長、悟君を、離してください。」  園長は腕から血を流しているかおる先生を見て、大急ぎで座らせ、悟の口を開かせるために鼻をつまんだ。息ができなくなれば離すはずだ。  普段は決して園児の身体に優しく触れる以外の事はしない園長だったが、緊急事態だと思って、そうしたのだった。  思った通り、悟は口を開けた。その瞬間、園長は悟とかおる先生を引き離した。  悟の口にはかおる先生の血がついていたが、それを美味しそうに舌で舐めていた。 『ヒィッ』  二人は声にならない声をあげて、悟を一番小さい部屋に入れて、誰とも接することができないようにして、急いで悟の家に電話を架けた。 「鳩の森幼稚園です。悟君が担任の保育士を噛みました。保育士は怪我を負っています。急いで迎えに来てください。」 「申し訳ありません。すぐに参ります。」  悟の母は何かを察したように息を飲んで電話を切った。  園に着いた悟の母は、かおる先生に謝り、今後このようなことが無いように気を付けるので、悟の食事中には近づかない様にとお願いした。  園長はかおる先生の治療費はお支払いいただきますよ。と言って、その日はそのまま悟を帰した。  帰り道で母親は悟に言った。 「あれほどいっておいたのに、先生を噛むなんて。」 「でも、お友達の事は食べなかったよ。」 「やめなさい!」  なにやら不穏な空気のまま、悟は家へと帰って行った。
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