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圭人が出張に行ってから、3日が経つ。
俺は住みなれた部屋での一人の気楽な生活を享受していた。
圭人からは、ポツポツと連絡が来ている。
とはいえ出張先での仕事はそれなりに忙しいらしく、疲れた、眠い、とかそんな連絡だけ。
「うわ……またやったよ……」
ぼーっとしながらキッチンで夕食を作っていると、チャーハンを作り過ぎてしまった。明らかに二人分の量だった。
圭人の家に居候させてもらっていた期間の癖で、昨日もこうやって作り過ぎてしまったのだ。
まあ、冷凍して明日に回すから良いけど。
「あいつがいつも美味い美味い言いながら結構な量食べるから……」
自分のミスを出張でいない人のせいにして、俺は一人ため息をつく。
ご飯を食べる時も、テレビを見る時も、今こうして居る布団の中でも、常に隣には圭人がいた。
最初は男二人で暑苦しいと思っていたのに、同じベットで触れ合う親友の体温がないと薄ら寒くて、俺は布団を被り背中を丸めた。
待ちに待った、いつもの日常ってやつを取り戻したはずなのに、どこか心が晴れないのは、何故だろうか。
それ以上深く考えるでもなく暗闇でただ目を閉じていると、枕元でスマホが振動をした。
手に取ると、画面には俺の頭を悩ませる渦中の人物からのメッセージが届いていた。
『塁、もう寝た?』
たった1行だけのメッセージに、俺は「まだ起きてる」と返事をする。
するとすぐに既読がついて、一枚の写真が送られてきた。
『飲み会してる。早く帰りたい』
そう一言添えられているものの、懇親会か何かの様子を写した画像の中の圭人は、よそ行きの爽やかな笑顔で、大勢の人間に囲まれていた。
「……この人、」
そして、そんな圭人の隣で、肩が触れ合う距離で、自分がどの角度からだと一番可愛く映るのかを熟知してます、といった写真映えのする綺麗な女性がピースをしている。
俺の視線は、自然とその女性に釘付けになっていた。
「圭人の、元カノ……」
二度、バイト先に来店した彼女を、親友の衝撃的な事実を暴露してくれた彼女を、俺が忘れるはずがなかった。
「一緒に出張行ってたんだ」
俺がいつも圭人と肌を合わせる行為の、その一歩先まで、経験している人。
本命に手を出せないフラストレーションと欲望の矛先を望んで受け入れた人が、一週間泊まりで一緒に居る。
俺はまだ会社に勤めてないからもちろん出張なんてしたことないけど、普通、同じ会社でおんなじホテルとったりするよな。
「……しようと思えば、いつでもできるじゃん」
あいつ、俺と離れるのが寂しいなんて言ってたけど、なんだかんだ楽しんでるみたいだ。
親友の公私が充実するのは、友人としては羨ましくも、微笑ましい限り。
『今はもう、ずっと塁に片思い続ける自信ない』
ふいに、親友の放った一言が反芻された。
これでいい。これでいいはずだ。
圭人も徐々に現実を見る気になって、俺に友情以上の感情を抱かなくなれば、ここ数日の出来事には蓋をすればいい。なかったことにする、ってやつだ。
火遊びみたいなものだろ。
『塁、好きだよ』
やめろ、考えるな。思い出すな。
圭人に想いを寄せられて、好きだとまっすぐに告げられると、
心臓の奥底から全身に血が巡り、脳が痺れて、心が浮き立つ、こんな自分を認めたくない。
こんなの、俺じゃない。
違うはずなのに、どうしてこんなに、心がざわつくんだ。
俺はこの日から、自分の弱さゆえに、圭人への連絡を絶った。
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