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転校しても、手紙書くよ、電話するよ、ずっと友達だよってセリフ。 ドラマとか漫画でよく聞くけど。 でもあれって実際、本当にやり取りすることなんてほとんど無い。 これは、物心ついた時から、親の仕事の都合で転校や引っ越しの繰り返しだった俺が、初めて言ったかもしれないわがままだった。 『父さん、俺、まだこの街に……この学校に、居たい』 圭人といると、心地いいし、楽しい。 初めて出来た本当の友達と、離れたくなかった、ずっと一緒に、このまま楽しく過ごしたいと思ってた。 なのに、どうして。 触られても、キスされても、こんなことされても嫌じゃないんだよ、俺。 こんなの、友達同士のすることじゃないのに。 ――……ヴー、ヴー。 親友と唇が重なるほんの数ミリ前で、スマートフォンが大きな振動音を発した。 目の前には、期待と欲情が垣間見える眉目秀麗な顔がある。 その着信は気にもとめず、ただ俺をまっすぐに見つめていた。 反対に俺は一人我に帰り、とっさに触れそうな唇を掌で弱く押しのけた。 「……なにすんの」 「電話、鳴ってるから」 俺が急いでスマホを拾い上げると、圭人は「いいところだったのに」とふてくされたように呟く。 俺はかまわずに通話ボタンを押した。 電話の相手は、バイト先の同僚だった。 「……も、もしもし田中?」 『おぉ、るいっち。今何してる?』 「え、友達ん家だけど……」 『友達って、男?』 「うん、そう」 『ちょーどいいわ!これから先輩ん家で宅飲みすんの。A大の女子もけっこー来んだけど、逆に男が足りねーのよ。友達連れて一緒に来いよ。可愛い子ばっかだぞ~』 少しテンションの高い様子の彼は、電話口で嬉々として俺を誘う。 女子大生と宅飲みって響き、エロい気配しかしない。すごく正直に申し上げますと、行きたいです、はい。 すると突然、耳に当てていたスマホをするりと抜き取られた。 犯人はもちろん、一人しかいない。 「ごめんなさい、塁は相手いるんで行けませーん」 「ちょっ、何勝手に……!」 もともと圭人の表情はあまり豊かな方ではないが、少しばかり不機嫌なのが見て取れる。 圭人はそのまま勝手に電話を切ってしまった。 「おい、なんのマネだよ」 「なに、塁は行きたかったの?」 「なんで怒ってんの」 「俺がいるのに、ワンチャンできそうな合コン、行きたかったの?」 「それは何目線の言葉……?」 思わず、お前は俺の彼女かよとツッコミを入れそうになる。 冗談、にしては演技派だと感じるくらいに、その言葉、表情1つ1つから圭人の苛立ちが伝わってきた。 「とりあえず、折り返すから返せよ」 「嫌だ。やっぱ、行くんだ」 「違うから!あんな切り方、失礼だろ、ほら」 やや強引に圭人からスマホを奪い取り、勝手に切られた通話履歴を押す。 圭人はやや顔をしかめながらも、邪魔をするでもなく、俺に抱きつくようにひっついてきた。 「あっもしもし?さっきはごめん、友達酔っ払ってて、ふざけて電話切っちゃってさ」 圭人は酔ってなどいないが、素面であんなことをするおかしな友達だと思われるのも良くないだろう。嘘も方便ってやつ。 「そんで、さっきのお誘いの件なんだけど……」 早速本題に入ろうとすると、圭人が俺を抱く腕に力が入った。 まるで逃さない、とでも言いたげ。 なんか、子供みたいだな、と俺は笑うのを堪えて静かに鼻を鳴らした。 「ごめん、今日は先約あるからさ、行けないわ」 電話口の田中にそう告げると、圭人が少しだけ驚いたように両眉を上げて見せた。 『えーまじかよ。もったいね~、チャンスなのに』 「ほんとごめんな、でも誘ってくれてありがと」 『俺が一足先に彼女作っちゃうからな!後で後悔しても遅ぇぞ~』 「はいはい、頑張ってな」 ブツリと電話が切れるのを見計らって、圭人がさらに俺に体重をかけるように前のめりで擦り寄る。 「行かないの?本当に」 「行かねーよ。急だし」 「本当は行きたいんでしょ、塁のえっち、ケダモノ」 「それをお前が言うのかよ」と、思わず吹き出した。 そりゃあ、女子大生とあわよくばな展開になれたら嬉しいし、彼女だってぶっちゃけ欲しい、けど。 「先に約束した方優先すんのが普通だろ」 ふざけたように俺にのしかかる圭人の身体をグイグイと押しのけながら、そう告げる。 すると圭人は一瞬目を丸くしてから、目が細い線になるくらい、にま、と笑った。 その表情に、俺は心臓を握られたと錯覚するほど、気持ちが高ぶった。 周りからは、顔はいいけど、無気力で、何を考えているかわからない。なんなら少し怖いなどと言われることもある圭人が、こんな表情を見せるのは久しぶりだったから。 「だよね、塁は、そういう子だよね」 ふふ、と鼻を鳴らし、圭人は噛みしめるように呟いた。 そんなに喜ぶようなこと、言ったか? 「……で、約束ってなんでしたっけ」 「は?」 「塁さんは誰と何を約束したんでしたっけか」 いつもの控えめな笑顔に戻った圭人が、ゆっくりと俺の唇を親指でなぞる。 その動きが、無駄にエロいんだって。 「さ、さぁ……なんだっけ」 「うわ、逃げた。塁ひど」 「そっちも大概だろ……また勝手に俺に相手いるとか言って。いねーよ、ドフリーだよ」 「あは、誤差じゃん、誤差」 「誤差?何が」と返すと、一瞬だけ、圭人はもの哀しい表情をして見せた。 この悩ましげな顔を、俺は見たことがあった。 いつ、どこでかは思い出せないが、この印象的な雰囲気を、はっきりと覚えている。 「相変わらず鈍いな、塁は」 「何が言いたい」 「……もう、」 圭人の指が、唇の隙間から咥内に割って入る。 そうして無理やりに開かれたそこに、親友の熱くて長い舌と、潜んでいた本音が押し込まれた。 「大人しく、捕まってくれればいいのにな」
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