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「ただ、それだけなんだけど。ごめん」
彼が謝罪の言葉を口にする。
聞く人によっては誤解しそうな発言だ。具体的な説明もなく「ごめん」では、まるで浮気を謝っているみたいではないか。
しかし、彼が隠れて浮気するような人間でないことくらい、とっくに私は理解している。おそらく彼としては、私が気を悪くしたと思って、その原因になったのを謝っているのだろう。
髪の毛なんて見当たらない程度まできちんと掃除しておけばよかったとか、女性を部屋にあげる予定もあらかじめ伝えておけばよかったとか、そんなことを考えているに違いない。
「あなたは悪くないんだから、謝らないでよ。宅飲みってことは、女の子が一人で来たわけじゃないんでしょ?」
彼氏のプライベートを拘束するような、嫉妬深い恋人にはなりたくない。でも今の私は傍から見ればそんな態度、いや実際に私の中には少し、そんな気持ちもあるのだろう。
「うん。野郎三人と、女の子が二人」
「わかった。じゃあ、この件は終わり」
そう言い切って、私は立ち上がった。
ついテーブルの上にバンと勢いよく手をついてしまったし、表情も険しいままだ。これでは言葉とは裏腹に「まだ怒っています」という態度に見えるかもしれない。
「……」
口には出さないものの、彼の視線は「どこへ行く?」と尋ねていた。
今日は泊まりの予定だったのに、私の気が変わって帰ってしまう。そんな可能性を思い浮かべたのだろう。
「あなたと話してたら、おなかが空いたの。だから夕飯の材料、買ってくる。ただそれだけよ!」
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