15話 遺跡を出ると

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15話 遺跡を出ると

 俺は遺跡を抜けようと暗い通路をゆっくりと歩き続ける。  先に見えるのは遺跡の出口。  もう少し、もう少しで遺跡を出られる。  色々あり過ぎて身体も精神的にも限界が近い。  いつも愚弄されるが、それでも共に冒険する仲間だと思っていた。  だけど実際アイツらは俺を雑用、いや雑用以下の扱いをした挙句、魔物の餌として放置し自分たちはさっさと王国へと帰還した。  しかしそんな悪いことばかりではなく、嬉しい誤算もあった。この女を早く復活させることができれば、間違いなくさらなる力を得ることができるのだ。期待を膨らませる、それほどの力を女は持っているのだ。 「リヒト! 大丈夫!?」  遺跡の出口から聞こえたのは、間違いないリーズの声だった。  あいつ騎士団なのにここに来て大丈夫なのか?   副騎士団長って立場だぞ。  おまけにたくさんの騎士を連れてきてるしで、状況がカオス過ぎてもういっそどうしたらいいかわからない。  そして俺が遺跡を出ると、心地よい風が吹き、太陽の光が無性に眩しく感じる。  今まで暗い場所にいたから当然なのかもしれないが。 「ああリーズか……」 「どうしたのよ、そんなボロボロになって! 誰かにやられたの? それとも例のパーティー?」  そう言いながらリーズは俺に回復魔法〈治癒(ヒール)〉で傷を癒やしてくれた。リーズの手から灯る緑色の光が俺の傷をみるみる癒していく。  遺跡を出るのに必死になっていたこともあり、一切痛みを感じなかった。本当に人は不思議だ。違うことに集中していると、そっちばかりで他の感覚が感じなくなるのだからな。  でも思ったより傷は深かったようだ。  少し跡が残っている。 「はい、終わったよ。もう痛くないでしょ」 「ああ、そんなことより話したいことがあるんだ!」 「ごめん、今は遺跡の調査で魔物の餌食になった遺体があるって話だったから捜索しないといけないの」  魔物の餌食?  遺体?  それがこの遺跡で?  いやいやそれ絶対俺だろ! 多分情報を流したのはアイツらか……仕方ない、会いに行って驚かせてやるか。どんな顔をするだろう、楽しみで仕方がない。 「じゃあリーズ俺は家に戻るよ」 「うん、また連絡するわ」  俺がリーズと和気藹々と馴れ合い話している姿を見た屈強な騎士たちの顔が怖い。まるでリーズに近づくなと言わんばかりの鋭い眼光に、殺気が満ち溢れている。 「チッ副騎士団長と馴れ馴れしく話やがって」 「ざけんなよ、あの野郎」 「マジで殺す」  お前らにそこまで言われる筋合いはないのだがと思った瞬間、リーズが鞘から刀を抜いた。  そして俺に野次を飛ばした騎士の喉元に刀身を当てたのだ。 「今、何か言った?」 「いえ我々は何も……」 「私に嘘を言うとは……以前言ったはずよね。私に嘘を吐く者、大切な人への侮辱は許さないと」 「……すみませんでした。無礼をお詫びいたします」  あまりの恐ろしさに膝から崩れ落ちる者。  足や手をぶるぶると震わす者までいる始末。  騎士達も色々と苦労しているのだろう。  だってあのリーズだぞ。  一見クール美人で面倒見がよく優しそうに見えるが、怒るとマジで怖いからな。  さてと俺はそろそろ王国に戻ろうか。  俺はリーズに背を向け手を振った。  そしていつも待ち合わせしている酒場に入るとそこにはゴードンたち“(かみ)刺客(しきゃく)”の面々が悠長に酒を飲み交わしている。 「今、戻ったぞ」  三人に声を掛けたが何の反応も示さない。  だが一人、アンだけは俺に気づいたようで手を振ってくれている。  対してゴードンとフランに関しては完全に無視。一発ぶん殴ってやりたい気分だが、間違いなくやり返されるし、ここは耐えるとして力を手にした暁にはこいつらミンチにしてやる。  骨の髄まで焼き焦がしてやるから覚えてろよ。 「おいゴードン! 聞こえてないのか!」  そう俺が叫ぶとゴードンはうっとりした目で、 「おう、リヒトか……ま、待てなぜテメェがここに!?」  思った通りの反応だった。  もう少しオーバーリアクションしてくれると期待していたが、そこまでの男ではなかったわけだ。  つまらん男だ。  そして俺が三人の前に立つと、 「まあ、生き残ったならご苦労さん。だけどなお前は明日から必要ない。足手まといになるだけだ! 探知スキルを使えるだけで、戦闘もできないんじゃ雇ってる意味もねぇし、大人しく死んでたらいいものの」  と、ゴードンは言ってるが明らかに動揺している節が見受けられる。まるで死者を見ているかのように手をガタガタ震わせ、グラスから酒が溢れているのだ。 「そうよね、あまり役にも立ってくれないし。魔物の餌になることすらできないのだから」  フランは足を組みながら引きずった顔でそう言っている。  まったくもって説得力がない。   「わたくしは金銭を払う程の仕事をしているとは思えません」  と、アンも言ってるが彼女に対しては俺は何も言わない。事実として遺跡から姿を消した時も傷薬を俺の手に握らせてくれてたし、本当は心優しい子だと知っているからだ。    そこでさらにゴードンが俺に妬みが混じった罵声を浴びせてきたのだ。 「お前は、本当に足手まといだよ! それとなんでお前みたいな奴が、王国内でも有名なリーズ副騎士団長と仲良くしてるんだ! ……意味がわからん!!」  まあ、ボロカス言われるだろうと覚悟はしていたが、実際言われるとちょっもへこむな。  でも何で俺とリーズとの仲を知ってるんだ?   二人の関係は誰にも話したことがないはずだ。  それにリーズが自身のことを話すことも考え辛い。深いところまで勘繰られていないのなら何の問題はないがな。  リーズはよくよく承知しているはずだ。  自分のことを話せば過去が明らかにされ、王国が対処しようとすることに。
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