2人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
第12章 蘇る愛
傷心の日々を送る祐二は、小岩のアパートを引き払った。
心機一転の契機にするつもりだった。
3月に起きたあの不幸な出来事の舞台であるとともに、多くの女性と性交を重ねた部屋でもあった。そこから一日も早く脱出したかった。
寺町
通勤・通学には遠くなったが、千葉県市川市の中山町に転居した。
家賃は安く、また法華経寺の寺町の一角にあり、緑が多く落ち着いた雰囲気があった。
小岩とは異なる環境を求めた結果だった。
また卒業した船橋市の中学校や思慕する小谷野亮子の自宅へも、近くはないが徒歩で行ける距離でもあった。
そこは、国鉄の下総中山駅から北側に向かい、京成線の踏切を越えて法華経寺に繋がる参道を登った中腹にある。
参道の右手奥にある木造建ての貸し間式の古いアパート。
この参道は中山競馬場から続く『旧オケラ街道』でもあり、往時には競馬帰りの客を目当てにした賭け将棋など様々な露店が立ち並んだ。
参道からアパートまで続く短いスロープを登ると、古びた大きな黒門がある。
それを潜ると、広い玄関が表れる。
表札には『田中』と書かれ、アパート名は書かれていない。
その左手は、北側の裏庭に繋がる。
右手の先には、池のある広い和風庭園がのぞいている。
ここは寺の宿坊だったものを、そのままアパートとして活用している。
玄関を入り、高い敷居を跨ぐように上がると、左手の短い廊下が管理人室に続く。
右手には、磨かれた艶々の廊下が南側の庭に面して長く続く。いわゆる縁側。
その廊下の左側に各部屋がある。
祐二の部屋は入って最初の部屋。部屋の西側に格子窓がある。
玄関と管理人室に繋がる廊下に面していた。
採光や通風のためのものらしいが、祐二には管理人の監視窓にしか思えなかった。
各部屋にはドアがない。廊下との仕切りは障子戸だけ。
当然、鍵などは付いていない。
全くプライバシィが保たれていない畳敷きの部屋で、台所もトイレもない。
あるのは押し入れだけ。つまり寝泊まりするだけの部屋にすぎなかった。
トイレ、炊事場、洗濯場は共同で、廊下の一番奥に設けられていた。
早朝には法華経寺から読経が聴こえ、線香の匂いが庭から流れてくる。
夜学やホスト稼業から帰宅する深夜には、参道もアパートにも灯りは一つとしてなくなる。全くの、静寂の闇に包まれる。
歴史のある寺町での生活は、決して利便性は高くない。
ただ心機一転するには、環境の大きな変化が必要だった。
転居したことは、ただ一人亮子だけに手紙で連絡した。
しかし、引き続き何の返事もなかった。
大きな期待はしていなかったものの、その事実は心を挫けさせる。
現在のように、携帯電話やスマホが普及していれば、物事の進捗がスピーディで結果も多辺に富んでいたことだろう。
そんな新居での生活に、ようやく慣れてきた8月下旬。
部屋から覗く緑茂る庭先からは、蝉の鳴き声がどことなく弱々しく聞こえてくる。
夜学は夏休み、サパークラブもお盆休みがあって、8月は一年で最も暇な時期だった。
この時期の休日は、帰郷する所もない孤独な祐二にとって、ゆっくりと体も心も休めることができた。
病んだ胸の痛みも、徐々に落ち着きを取り戻し、大学二部への進学も具体的になりかけていた。
亮子を愛する心は緩むことはなかったが、少しずつ失恋という諦めのさざ波が寄せては引いていた。会いたかった亮子とは、この3月に偶発的に再会した。
しかし、その結果は無残なものだった。
ちぎれた赤い糸は、ほぐれたまま。
突然の来客
そんな日曜日の午後、昼飯を食べに行こうと身支度をしていると、管理人のおばさんの甲高い声が祐二を呼んでいた。
「松岡さ~ん、お客さんだよ!玄関に来て頂戴!」
(誰だろう?)
友人達との交流を避けていたので、転居以来、訪ねてくる人は誰もいなかった。
ランニングシャツにジーンズの姿で、明け放しの障子戸から廊下に出た。
腕を捲って、白い割烹着を着込んだ小太りの管理人のおばさんが、こちらを向いてニコニコ笑って立っている。
「お客さんにあがってもらったら、冷たいものでも用意しようかねえ~」
そう言うと、北側にある自室へと消えていった。
開かれたままの玄関の引き戸のそばに、若い女性の姿があった。
白地の綿のノースリーブと、流行りのマリンブルーの布地に白いストライプが入ったアンクルパンツに身を包んでいる。
髪はツイッギー・カットのショートヘアーにして、いかにもボイッシュで、眩しいほどの爽やかな出で立ちだ。
(誰だろう・・・?)
ほんの一瞬、誰だか分からず声が出なかった。
(え~っ、亮子!?)
祐二は、忽然と現れた愛しい女との出会いに我が目を疑い、呆然と玄関の上からその容姿を見下ろしていた。
夢心地で声も出ない。
夢ならば、覚めないで欲しいと願った。
すっかりイメージチェンジをした小谷野亮子の全身を、まじまじと見つめていた。
顔は薄化粧だったが、口紅だけは赤くくっきりと塗られていた。
半年ほど前には気が付かなかったが、背丈は伸びて顔立ちもやや痩せて面長になり、大人の女性に変わっていた。
それでも亮子は、いつものはにかむ仕草を示し、麻地で編まれたショルダーバッグをささえている肩を側めて、もじもじと立っている。
その清純ないじらしさは、変わっていない。
それとは裏腹に、ノースリーブから出ている腕や下半身にピタリとしたアンクルパンツに密着した腰と太腿は、肉感的でグラマーなモデルのようだ。
立ち尽くしている祐二を見かねて、無口でハニカミ屋の亮子から、精一杯の明るい声が飛んできた。
「誕生日のプレゼントを持ってきたの」
と、いつもの直情的な言葉を吐きながら、玄関の中に身を入れてきた。
飛び上がるほど嬉しかった。
来月9月は19回目の祐二の誕生日。
天にも昇る気持ちとは、このことだろう。
ショルダーバッグを開けて、中から地味な茶封筒を取り出して片手で突き出した。
感激のあまり、声がすぐに出なかった。
両手でそれを受け取ると、思わず中身をその場で取り出してしまった。
中から出てきたプレゼントの品は、紺色のレース糸で手編みされたネクタイだった。
包装紙にも包まれていないこともあって、それを見てすぐに手編みと感じた。
首に巻く部分が細くくびれておらず、ほとんど全体に同じ幅のネクタイに仕上がっていた。
実際にこのネクタイを締めたら、結び目が膨れるような気がする。
しかし、どんな高価な既製品よりも、祐二にとってずっと価値がある宝物になる。
亮子の祐二に対する愛の強さや、深さが込められている逸品。
きっと祐二の誕生日までに間に合うように、編み始めたのだろうから、相当以前から会う決心をしていたのだろう。
また会う決心をしたのは、あの不幸な出来事の直後で、会う切掛け作りのため祐二の誕生日が近づくのを、辛抱強く待っていたのかもしれなかった。
「あら、どうしたの。まだ玄関先で、何をしているの。松岡さん早く上がってもらいなさいよ」と、管理人のおばさんが玄関に戻ってきた。
両手に抱えたお盆には、麦茶が入ったコップが二つ乗せてある。
「上がって」と言って、祐二は両手を差し伸ばした。
ここの敷居は玄関から、かなり高いので上がりにくい。
亮子は黙って、祐二に両の手を投げかけてきた。
手を握り、上からその手を引っ張り上げた。
おばさんは既に祐二の部屋に入って、中央に置かれた『ちゃぶ台』に麦茶を置いていた。
二人が部屋に入ると、ニヤニヤと薄笑い顔を作って、
「ゆっくりしていきなさいよ」と、言った。
その視線の先は祐二ではなく、若い娘の顔を覗き込んでいた。
「ありがとうございます」と、緊張している祐二に代わり、亮子が立ち姿のまま軽くお辞儀をしてお礼の言葉を述べた。
暑い季節なのに、おばさんは気を使ったのか、障子戸を閉めて出て行った。
二人は、ちゃぶ台を囲んで座った。
3年半ぶりに、二人きりの世界ができた。
「何もない部屋なのね」
部屋を見渡しながら、亮子から口を先に開いた。
「ここは貸し間だから、あまり食器や家庭用品は置けないので・・・」と、答えた。
「確かに・・・あるのは万年ふとんと、ちゃぶ台に、扇風機一つね、電気釜、それにゴミ箱もなくなっているわ」と、小岩のアパートでの調度品を記憶していて、その比較をしている。
(まだあの日の焼きもちが消えていないのか、石田ゆり子との関係を気にしている。当然だな、女の子なら・・・)
手編みのネクタイ
祐二はその話は避けるように、プレゼントのネクタイを手にしながら、
「本当にありがとう。真心のこもったプレゼントだね。手作りのネクタイなんて、あるのだね。感激だよ」と、真顔で言った。
「不器用だから下手だけど、喜んでもらえたら嬉しいわ。誕生日プレゼントに手編みのネクタイを選んだ理由を知っている?」
押しつけるように、自らプレゼントの品の選択理由を彼に尋ねている。
夜の水商売をしている祐二には、その意味が十分解かっていた。
女性が特定の男性にネクタイをプレゼントするのは、ネクタイが首にかけられることから、「あなたに首たっけ、丸惚れ」と、いう愛の告白の意味が込められている。
それを当の女性自らの手で編んだネクタイには、「私だけの」との強い独占欲が込められている。
「知識としても分かっている。それに、亮子さんが僕を慕ってくれ続けている気持ちも、今よく分かった。君を傷つけた僕なのに、その僕だけを好きだと言ってくれている。嬉しい・・・本当に悪いことをしたと後悔してきた。許して欲しい」
と、そのネクタイを強く握りしめた。
「大事なのは、好きなことだけではないのよ。分かっているのでしょう。手編みの意味も・・・」
けっこう強い口調で話しているものの、声が震えている。
今にも泣きだしそうだ。
「今しっかりと分かったよ。君だけのものになる。今までもそのつもりだった。けれどその気持ちが、君に伝わらなければ、何の意味もない」
「松岡クンが私を思う気持ちだけではないわ。私も同じ気持ちであることを知って、私は貴方だけのものになりたい。高校は別れ離れになったけれど、ずっと松岡クンだけを思い続けていたわ。すぐにも会いたかったけれど、受験の失敗で落ち込んで、立ち直るのに時間が必要だったの・・・」
涙ぐんでいる。
続けて、「病院にも行ったの。つらかった3年間だったけど、思いつめる性分の私もいけなかったと思うの。あなたもつらかったでしょう。夜学に行くようになって、大変だった貴方を支えてあげられなくてゴメンナサイ。大学に進学できて、ようやく貴方に会える勇気が出てきたの。立ち直って、成長した私の姿を貴方に見てもらいたかった。私のことも許して。そして、貴方も私だけのものになって・・・」
祐二のことを、初めて「あなた」と、呼んでいた。
少し押しかけ女房みたいな感じもしたが、これまでになく強い意志を示している。
そう呼ばれて、夫婦や恋人になった気分で内心嬉しかった。
特に『私は貴方だけのものになりたい』は、恋から愛に変わった女の切なる心からの言葉と確信した。
亮子は顔を伏せて泣き始めた。
やはり、自分が心の病に苦しんだ時期に、同級生だった石田ゆり子と親しくなっていたことが、心の重荷になっているようだ。
いつもの感情をストレートに表す、彼女のいじらしい姿でもあった。
しかし、中学生のときとは異なり、自分の意思をはっきりと伝える人間に成長している。
泣き顔が起きて、祐二を見つめてきた。
「このネクタイはレース編みでしょう。糸は縦の糸と横の糸で織り合わせているのよ。縦の糸はあなた、横の糸は私よ。例え、糸がほぐれたり、ちぎれたりしても、糸を繋ぎ合わせることはできるものなの。愛は育むものでしょう」
「そうだね」と応えた。
しっかりと、理屈までも取り入れて述べる彼女の成長に再び感心した。
確かに『恋』と『恋愛』は同意語だが、『恋』と『愛』は違うと考えてきた。
それは、愛は育むものだから。
片思いは、恋だとしても、そこには愛がまだ存在していない。
『愛』は育むもの、祐二の心にその言葉が深く刻まれた。
「私たち、この3年間半もの間、ちぎれた縦糸とほぐれた横糸になったけれど、これから、もう一度糸を繋ぎ合わせましょう。お互いの気持ちを信じて育みましょう。たぶん、これからも傷つくことも、誤解することもあると思うの。特に、貴方はお人好しで、頼まれたら断ることができない性格。人に流され易いやさしい人でしょう。お互いに傷つくことが出てくる。でも絶対に信じ合いましょう。約束して頂戴!」
しっかりとした分析で、祐二の性格を見抜いて姉さん女房のような口調で約束を求めてきた。
*(この亮子が言った「縦糸」と「横糸」の言葉は、有名な歌の歌詞と似ているが、実際に亮子自身が実際に語った言葉である。その手編みのレースのネクタイは今も大切に保存されている。)
「よく分かった、信じ合うと約束する。僕はずっと君を信じていた。僕のことを信じてくれてありがとう。もう絶対に君を放さない!」
祐二も涙目になった。
「会いたかった」と、祐二は声を絞って言った。
声を出して泣きたいほどに、感情が高まってきた。
身を乗り出し、ちゃぶ台越しに亮子の両肩を押さえた。
うつむいたまま「私もすごく会いたかった」と。彼女は涙目に手を当てた。
祐二は膝を進め、ちゃぶ台の横に回って亮子をきつく抱きしめた。
彼女の顔が彼の胸に埋まった。
肩を揺らして泣いている。愛おしい。
さらにきつく抱きしめた。そのまま押し倒した。
髪に指を入れて撫であげ、顔を押さえた。亮子の広い額を久々に間近に見た。
そして、そこにフレンチキスをした。
彼女は目を見開き、祐二の顔をきつく見つめている。
「毎日会いたくて泣いていた」と、彼の首に腕を巻きつけてきた。
二人の顔が触れ合う。
そのまま口付けを交わした。
中学3年生以来、3年半ぶりの熱いキスだった。
あの頃の情景が去来する。
二人が純粋だったあの時の気持ちになって、同じような口付けになるように試みた。
塾した果実
祐二の胸が、亮子の胸のふくらみを圧迫している。
その胸は前よりも明らかに豊かに盛り上がっていた。
それに反し、首筋は細く長くなっていた。
鳩胸を支えていた肩も撫で肩に変形し、女性らしい曲線を描いている。
成熟とはまだいえないが、少女から大人の体に成長していた。
そのルージュに染まった唇をきつく吸った。
食べ頃の、熟した果実の味がする。
瑞々しい息吹を感じる甘さと、酸味が一体となったフレッシュさがあった。
唇を合わせたまま、再び、強く抱きしめた。
呻き声がもれた。
いつの間にか、亮子の舌が祐二の口の中を這っていた。
彼は一瞬たじろいだが、すぐに甘露の媚薬に酔った。
女の舌は、蛇のように舌に絡みついた。
長く激しいディープ・キスだった。
溢れ出た二人の唾液は、互いの口の中で混ざり合う。
混ざり合ったその唾液は、それぞれの口から滴りこぼれた。
顎まで滴れた唾液も、二人は交互に吸っては飲み込んだ。
久しぶりの激しい口吸いに、二人は酔った。
興奮に2人の全身には電流が流れた。
呼吸も乱れた。
長いキスの後、女を下に組み伏したまま、男の顔は女の胸に伏せていた。
女の胸は次の陶酔に溺れるのを待つように、その隆起が荒い呼吸に揺れ動く。
「死ぬほど好きだ」と、女の耳元に囁いた。
「私だって死にたいほどだった、早く会いたかった。大事な青春の3年間・・・ずっと貴方が欲しかった」
その言葉を聞くと女の頭を両手で押さえつけ、顔を伸ばして再び口吸いをした。
もう一度、激しい口吸いに二人は酔った。
また女の呼吸が荒くなり、胸の隆起が揺れる。
キスを続けながら、祐二は、ノースリーブの上から揺れる右胸の隆起をわし掴みにした。その瞬間、女の舌が彼の舌を巻き付け、強く吸い込んだ。
女は、息苦しくなって男の舌と唇を放した。
「ハァハァ」と息を荒げている。
一息入れると、自分でノースリーブを首までたくし上げた。
白いブラジャーからはみ出した隆起が、艶ぽっく母性を感じさせる。
女の背に手を入れホックを外した。
「外すの、上手なのね」と、囁いた。
緩んだブラジャーを素早く取り払い畳に投げた。
そして首に止まっていたノースリーブも、頭を通して取り払った。
白い肌の上半身が、眩しく輝く。
楔(くさび)
祐二は、亮子の上半身を起こした。
髪から額にかけ汗で濡れている。
上半身は白い肌が上気し、ほのかな桜色に染められていた。
次に何が始まるのか。
アンクルパンツやショーツも脱いで、全身裸になればよいのか、と男の指示を待っている。
男は待たせて、ランニングシャツを着たまま、自分のジーンズとパンツを同時に脱ぎ捨てた。
亮子には、中学校の教室で初めて抱かれた祐二との刺激的で甘美な想いが蘇っていた。
次第に、過去の恍惚の響きが体中に蘇ってくる。
愛おしい男の肉体が欲しい、と体の奥底が蠢いてきた。
その時、格子窓の外に人の気配を感じた。
その気配は揺らいだ影だった。
管理人のおばさんが、聞き耳を立て覗いている。
だが、ここまできた愛の営みを止めるつもりはなかった。
見られてもいいから続行する、と自分に言い聞かせた。
放心している女を、乱暴に押し倒した。
両足を上げさせて、両方の臀部の下に手をやり、アンクルパンツとショーツを掴んで一気に剥いだ。
全裸になった。
すっかり、大人の体になった亮子の全裸を眺めた。
「亮子さん、これから良くなっていくけど、声は押さえてがまんしてね。この部屋はよく響くから」
「は・・・い」
喉がかれて、かすれるような声で返事をする。
男は女の体の横に張り付き、時間をかけて丁寧に愛撫を続ける。
女の顔を覗いた。声が上げるのを懸命にがまんしている。
片手を口に当てたが、顔は半狂乱に苦悶の表情が続く。
次第に短い髪を振り乱し、顔を左右に振った。
喉の奥から唸り声が聞こえる。
咆哮をがまんしている。
そのうち二人が重なると、口から手を放して口を大きく開けて、声を押さえながら二度ほど低く吠えた。
髪、顔、全身に汗が噴き出していた。
「祐二、大好きぃ!」と、言って女は倒れ込んだ。
3年半待った久しぶりの激しい性愛。
女は未知の性技をいくつも体験させられ、連続した絶頂感に、心身ともにこの世にいる状態になかった。
男は、それを確かめる。
目は半開きで虚ろな表情。
口も半開きになっていた。
いたわりたくなって、口付けをした。しかし、反応はなかった。
それでも男は、女の表情に安堵感が見てとれた。
やすらぎの美しい顔だ。
この聖女のような亮子を、一生幸せにしたいと思った。
すると、静かに女の腕が伸びて、男の首を強く巻くのだった。
亮子のヴィーナスのような美しい顔が、微笑んだような気がした。
若い二人は、身も心も満たされていた。
「綺麗だ、美しい・・・」と、囁いた。
祐二の19歳の誕生日のプレゼントに、和解のための<手編みのネクタイ>を届けてくれた小谷野亮子。
その日二人は、転居して間もない貸し間の部屋で、中学校の体育祭の日に初めて結ばれて以来、激しくその肉体を貪り合った。
昼下がりの情事を管理人のおばさんに覗き見されたが、無視して二人だけの愛の世界にのめり込んだ。
幸せの小路
愛の交歓を終えて彼女を自宅へ送るため、ひっそりと二人はアパートを出た。
参道は桜並木。
今は、緑の葉が風に揺れている。
夏の西日が沈む頃は、坂下の下総中山駅から長く続く一本道に真っすぐな風が吹きあがってくる。
火照った体と頬に、柔らかな涼しさが流れる。
参道には提灯が灯され、行き交う人々にやすらぎを醸し出している。
二人は手をつないで、法華経寺に向かってゆっくりと坂道を登った。
愛の約束と深く肉体を交わしたことで、心身ともに満たされて二人は幸福感に酔っていた。寺の中山参道山門に突き当たると、右折して若宮町に入る。
坂道をいったん下り、点在する住宅を抜けると、上り坂になり広い畑地に出る。
そこに、中山競馬場と厩舎が見えてくる。
3年前、単身東京に出て働くことと夜学に転校することを余儀なくされ、そのショックと亮子への思いに一人悩み迷い歩いた場所。
あの時は、法華経寺に映える夕陽の美しさに心が震え、東京行きを決意した。
今は、その同じ道を逆方向に追い求めた恋人と手をつなぎ、その愛に包まれながら歩いている。
これまでの苦悩が、嘘のように胸から消えていた。
二人は、一言も言葉を発しない。
幸福感に酔いながら、ゆっくりと静かに歩いた。
しばらくすると、原木松戸道路に出る。
それを横断し、そのまま進むと道は突き当たる。
そこは新オケラ街道。
さらに左折すれば、亮子の自宅になる。
右折すると、大けやきの木と二人が卒業した中学校がある。
「学校に寄ってみない?」
と、ぽつりと祐二が言った。
二人の愛の出発点だった中学校に行って、思春期の思い出に触れたくなった。
「ええ、私も行ってみたかった・・・」
「よし行こう、長いはしないからね」と、彼女の帰宅時間に配慮した。
この道は、中学校の校舎の裏手にあるグラウンドに続く。
校舎側にある正門は夕方には閉ざされるが、グラウンド側には門がなく夜でも出入りできる。
二人は手をついだままグラウンドに入り、その中ほどで立ち止まった。
ひと気はなかった。
「二人して、ここを通って帰ったね」
「そうね。また明日会えることに胸がいっぱいだった。なつかしいわ・・・」
「僕は暗い家庭だったから、好きになった君に会えることが、生きる希望だった・・・」
「いつ頃から、私のこと好きになったの?」
「クラス替えがあった2年生のとき、初めて会ったその時から・・・可愛くてマブイ女の子と思った。胸がキューンとした。君は僕のすぐ後ろの席だったろう。すぐに話しかけたよね」
「そうね、気安いというか、図々しいぐらいに、あれこれと話しかけてきた。おかげで、通信簿に授業中のお喋りを慎むように、と書かれたわ。いつも消しゴムや鉛筆を貸してくれって、甘えるのだから。女子二人での下校中に、勝手に割り込んできて話に入るのだから」と、言ってクスクスと笑った。
いつのまにか、グラウンドは夕闇に包まれ、静寂の中で二人は両手を握りあい向き合った。
「じゃ僕のことはいつ頃から好きになってくれたの?」
「いつ頃からかしら、それがよく分からないの。いつの間にかという感じね、いつしかあなたの顔と話し言葉が、頭から消えなくなっていた」
「ソフトランディングか・・・」と、思わず微笑んだ。
「そうよ、好きなタイプでもないのに、あなたに一瞬でも見つめられると、その度にゾクゾクして、私も胸がキューンとするようになった」
「そうだったの、どういう人がタイプだったの?」
「言っていいのかしら、そうね、俳優で言えば、『北大路欣也』みたいな人」
「へ~え、僕とは似ても似つかない二枚目タイプじゃん、全然違うじゃないか」
「確かに違うわね、本当どうして好きになったのかしら、やっぱりあなたの吸引力の強さに引き込まれた。恋の魔術師なのかしら、いつの間にか、寝ても醒めても、あなたが私の胸の中に入ってきたのよ」
「そうか、中学生の魔術師か」
少し驚いた。
実はホストの仕事には『恋の魔術師』というオーデコロンを使っていた。
いつも、カバンの中に仕舞っておいた。
もしかして小岩か今のアパートで、彼女が見つけていたのかと心配してしまった。
ホストの仕事のことは話していない。
これからも言うつもりもなかった。
ただ、彼女の顔が少し曇った気がした。
女の直感は鋭い。気を付けよう。
「もうそれからは、あなたは私のオナペットだったわ。ただ、本当に恋の相手として意識したのは、あなたが家出して、2週間近くも学校を休んだ時からよ。もう心配で、心配で、会えなくなるのかと思ったら、泣けてきた。あなたがいない学校生活は、どんなに味気ないものか身に沁みたわ。下校後は家に帰らず、毎日『印内八坂神社』に寄って、お祈りをしていたの。早く戻ってきて欲しいと、願をかけていた・・・」
「え~っ、初めて聞いた話だね。休んだ後に登校しても、そんなこと一言も言わなかったね」
「そうね。・・・実は言えない理由があったのよ。今だからもう言えるけど、あなたが休んでいて、明日から登校してくるという前日に、担任の山谷先生がクラス全員にかん口令を出したの。
『明日から松岡君が出てくるが、クラスに戻っても、家庭の事情を中傷したり、休んだ理由などを聞いたりしないこと。今までのまま、変わらず仲良くするように、何もなかったように接するように・・・』と、厳命したのよ」
「ええっ!そうだったの、それで誰もあんなに長く休んでいたのに、休みの理由を尋ねてこなかった。少なくとも先生には、職員室に呼ばれて絶対叱られると覚悟していたのに、何もなかった。これまで不思議に思っていた・・・」
「だから貴方に対して、慰めや励ましの言葉をストレートに言えなかった。ただ、その時から、貴方を守ると決めたの。いつも貴方のそばにいて、支えてあげたいと思ったの、その時から『好き』が『愛する』に変わったと思うの・・・」
「そうだったのか、本当にありがとう。それでいつも僕のそばにいてくれた。体育祭のときも、一人教室に残っていた僕を心配して、見守ってくれていたのだね。あの時は驚いたよ。みんなグラウンドに行ったはずなのに、急に君が現われ、僕の指に包帯を巻いてくれた。その直後に教室で君を奪った。苦しかった僕をずっと支えてくれた君を抱いた・・・」
「偶然できた二人きりの時間だったわね。私は早くあなたに抱かれたかったの、神様が授けてくれた奇跡のひと時・・・」
「そうだね。それから、僕のあの長い休みは、本当は家出じゃなかった。今さら話してもしかたないことだけど、あの頃は、どん底の貧乏状態で家庭崩壊に陥り、義妹と義弟は継母とともに実家に戻ってしまい。残された僕は、父親から実母の元に行けと、一円の金も持たされないで放り出された。要するに家族解散。それで住所が判る祖母がいるという横浜に向かった・・・」
祐二は、初めて家出の真相を吐露した。
「そうだったのね。あなたが私に黙って家出するとは思っていなかったけど、そんな事情が隠されていたのね」
「ところが、もう母も祖母も訪ねたその場所にいなくて、僕は警察に保護され、その後は児童相談所に預けられた。10日ほどして父が引き取りに現われ、船橋に戻ったというわけ」
「本当につらい思いをしたのね。でも学校に戻った後、明るく振舞っていたわね。芯の強い男の子と思ったわ」
「君の存在があったからだよ、いつも僕のそばに居てくれた。そして励ましてくれ、いろいろと援助もしてくれた。君の愛に包まれていた。もし君がいなかったら、間違いなく自殺していたと思う」と言うと、急に切なくなった。暗く苦しい家庭生活が脳裏を走った。
「愛は強し。貴方を支えることで、私も生き甲斐ができた、大切な人と結ばれた・・・中学時代、私は幸せだった」
「だけど、卒業後は会えなくなって、悲しかった。その上、あなたは船橋から離れ東京に出てしまった。3年半もの間、お互いつらい日々だったね。特に君には、僕の軽率な行動で、二重、三重に苦しめてしまった。本当にゴメン」
手を強く握りしめた。
「それでも、こうして今日、もう一度結ばれたわ。私、幸せ者よ、お似合いの恋人同士だわ」
「亮子!」と叫んだ。
すばやく肩を抱き寄せた。
「あなた!」
彼女から唇を寄せてきた。祐二は強く抱きしめた。
二人は、ゆっくりと静かにキスをした。
長いキスが続いた。
やがて、どちらかともなく口を離すと「帰ろうか」、「ええ」
祐二は片腕で彼女の肩を抱き、彼女は頭と体を彼に傾けた。
二人はグラウンドを抜け、大けやきの木の前を通り、亮子の自宅へと向かった。
自宅の前に着くと、次の日曜日に会う約束をした。
二人にとって、本格的な大人のデートになる。
浴衣の誘惑
亮子を自宅へ送ってアパートに戻った祐二は、洗面道具を持って外出した。
夜の参道を下り、京成中山駅の近くの定食屋に入り夕食をとった。
食後はそのまま、すぐ近くにある銭湯に寄った。
まだ女の残り香がある火照った体を洗うと、亮子の成長した肉体が目に浮かんだ。
洗いながら、予期しなかった今日一日の出来事を振り返った。
今日のことは、自分の人生で最大のメモリアルデーになる。
爽やかな気分で銭湯を出て、口笛を吹きながら、参道を登りアパートに帰った。
部屋に着くと、障子を開け放して、蚊取り線香に火をつけた。
扇風機のスイッチを入れ、その前に座り上半身裸になって、洗った長髪を揉みながら乾かしていた。
しばらくすると、管理人のおばさんが廊下を歩きながら「松岡さん戻ったの、入るわよ」と、声を放った。
祐二が返事をする間もなく、あっと言う間にお盆を抱えて部屋に入ってきた。
「冷えたラムネがあるから、飲んで頂戴!」
と、お盆にのせてきた2本のラムネをちゃぶ台の上に置いた。
「おばさんも飲みたかったから、一緒に飲みましょう」と、座り込んだ。
すでにラムネのビー玉の栓が落とされ、小さな泡つぶが瓶の中で冷たさを伝えている。
おばさんは、白地に紺色で染められた朝顔模様の浴衣(ゆかた)を着ている。
髪を洗った後なのか、ほぐれ濡れている黒髪が妙に色ぽっい。
今夜は、50代のおばさんには見えない女の色気があった。
小太りの体がゆったりとしたゆかたに包まれ、いつもよりもずっと若くみえる。
「今日は暑かったわね、夜はいくらか涼しくなったけど、日中は暑さでムンムンして、昼寝もできなかったわ。そうそう若いお客さんは、いつ頃帰ったのかしら?」
と言いながら、祐二にラムネの瓶を差し出した。
(いつ帰ったか知っているくせに・・・)
「すいません、いただきます。友達は夕方に帰りました」
ラムネをおばさんの手から受け取る。
おばさんの胸元が目に入る。
乳首が見える寸前まで、胸元が開いている。
「若いっていいわね。二人とも元気はつらつとして、うらやましいわねえ。おばさんも若い頃に戻りたいよ!」
祐二は風呂上がりで喉が渇いていたので、一気にラムネを飲み干した。
「あ~ら一気飲み、男らしいじゃないの・・・」
「ごちそうさまでした」
ラムネの瓶を、ちゃぶ台の上に置いた。
祐二はおばさんが飲み終わり、部屋から出ていくのを待った。
彼女は両の足を斜め横に崩して、ゆっくりとラムネを喉に流し込んでいる。
やがて飲み干したのか、座った姿勢で瓶を片手に持って、祐二の体ににじり寄ってきた。
目をトロンとさせながら、上気した顔を寄せて、突然言い出した。
「・・・見たわよ。激しすぎて腰が抜けそうになった。あんなの見たのは生まれて初めて」と言うと、さらに膝を進めて体を寄せてきた。
「お願いがあるの、後生だから一度でいいからオレにも頂戴。抱いておくれよ。悪いようにはせんから」
と、今にも祐二の体に飛びつきそうな気配を示す。
「ダメです、おばさん。冗談やめて下さい。そんなことできる訳ないでしょう」
と断り、その体を制した。
それでも体をにじり寄せると、帯が緩んだのか胸元が一層広げられ、肩からゆかたが落ちそうになってきた。もう完全に、若い男の横に体を接していた。
すると、ゆかたの裾を少し緩め、大きくあぐらをかいて座り込んだ。
そして裾を広げまくり上げた。
ショーツを履いていない。
祐二は呆気にとられた。
「ふ~っ、年寄りに恥ずかしい恰好をさせて、よく平気だね」
と、半分怒った表情をみせた。
(勝手にやっていれば、僕には関係ない。今日は愛する亮子と和解して結ばれた記念すべき日だ。何でおばさんと戯れなくちゃいけないのか)
根負け
おばさんは、その内に帰るだろう。
ただおばさんは今、自分のことを「オレ」と、言っていた。
何かひっかかるものがあった。
どこかで聞いたことがあった。
思い出した。そうだ亮子の8人の姉さんの誰かが、自分のことをオレと言うと、亮子が祐二に話したことがあった。
すると、もしかしたら、おばさんはこの辺りの農家の出身かもしれない。
ひょっとすると、小谷野家の知り合いの可能性もある。
だとすれば、ますますやばい。
亮子を、二度とこの部屋には呼べない。
これからは外で会うことにしよう、と決め込んだ。
女は、乱れた姿でだらしなく倒れていた。
祐二は扇風機を動かして、おばさんの顔に直接風があたるように動かした。
しばらくすると、女はむくりと起き上がった。
「よくも恥をかかせてくれたね。若い女にはヒィヒィ言わせるくせに、年寄りには、指一本触れないつもりかえ、オレも腹くくったよ。あの子は小谷野家の娘だろう。言いふらしてやるから!」
「え~っ、そんな。止めて下さいよ、何も悪いことしているわけじゃない。真面目に付き合っているのだから」と、彼は困ってしまった。
世間は狭い。ましてや農家の横の結びつきは強い。
関係する男女の色ごとの噂は、あっと言う間に広まり易い。
これから本格的に亮子との交際が始まり、将来は結婚したいと願っているのに、妙な噂で亮子を傷つけることはできない。
交際を禁じられてしまう可能性も出てくる。
問題が起こってしまった。
迷った。
「こんなに頼んでもダメなのかい。聞いておくれよ。おばさんは長い間、男日照りなの。戦争で夫を亡くしてね。いつも一人寂しくしているのよ。親孝行だと思って、一度だけだから、二度とは頼まない。お願いだ。思い切りオレを食べておくれよ」
と、今度は泣き落としにかかってきた。
女は半べそをかきながら、両手を合わせて頭まで下げている。
その仕草に負けてしまった。
やさしすぎる祐二の悪い癖。
亮子にも注意された。
頼まれると嫌と言えない性格を指摘されたばかりなのに、恫喝や泣き落としもあったが、最後にはその強要に負けて、同情がその決心をさせた。
「分かりました。負けました。でも約束してください。小谷野家には何も言わないと約束してください」と、白旗を掲げた。
「本当かえ、約束するよ、怒ってゴメンよ、親孝行な息子だよ、おばさん嬉しい1回だけだから」と、涙声で言った。
祐二はジーンズを履いたまま、座っているおばさんの前に無言で立った。
もう彼女のゆかたは、帯の部分だけが身についているだけで、上半身も下半身もむき出ている。
おばさんの目がキラリと光ると、すばやく男のジーンズとパンツを剥ぎ取った。
そのまま二人は倒れ込んだ。
(亮子ゴメン、許してくれ・・・1回だけだから)
女は昼間覗き見た、若い二人の抱擁を思い出しそれを真似る。
「たまんないねえ。松岡の若いからだ」と、満足そうな表情で相好を崩した。
祐二はうな垂れている女の顔を上げさせると、その前に膝をついて屈んだ。
顎を掴み上げると、上向いた唇に口付けをした。
50歳を超える女との口吸いは初めての体験だった。
甘酸っぱさには多少欠けるが、大きな違いはなかった。
二人の口内に甘美が走り、二つの舌が絡み合った。
口吸いを続けながら抱き寄せ、二人の胸を合わせて乳房を潰した。
弾力の強い胸が心地よい。
さらに、うなじや喉元に唇と舌を這わせた。
「抱いてくれるのかい?いいのかい。こんなおばあちゃんにも、かましてくれるのかい」と、耳元に囁く。それには答えず、彼は黙って続けた。
その後は、「ああ~っ、いいねえ。たまんねえ・・・」と、何年振りかの刺激を楽しんでいる。
「死んじゃうよ!」
女は、必死に男の首に巻いた腕でしがみつく。
女の体が揺れ、喘ぎ声が大きく響く。
「おばさん、声を落として障子が開いているよ」
「あいよ、でも今夜は松岡だけだから・・・でも近所に聞こえないように抑えるよ」
女は全身汗だく。
形相は夜叉のように目が吊り上がり、額に大きな皴を寄せて苦悶の表情を作る。
「いいっ、壊してくれっ!」
女の体が大きく揺らぐ。
顎を上げて体を後ろに反らした。
1時間ほどしてから、男は女の体から離れた。
女の尻が、鞭に打たれたように赤く腫れあがっていた。
乱れたゆかたを拾いあげて、うつ伏せている女の体に被せた。
やがて意識を取り戻した女は、うつ伏せた体のまま顔を横に向けて
「男だね、松岡は・・・死ぬほどイカされたよ」
と、言って起き上がろうとした。
しかし、立ち上がることができなかった。
「うんまあっ、腰が抜けたようだ。悪い男だね。女の体を芯まで食い尽くして、立てないから、こっちへ来て抱きあげておくれ」と、言った。
女の体に手を回し、反転させてから抱き上げて立たせた。
女は体を寄せてきた。
そして、男の首に手を回すと口付けをしてきた。
受け止めて口を吸った。そして、やさしく抱いた。
「こんな体じゃ、しばらくは抱いてもらえないねえ・・・」と、甘えるような声で囁いた。
最初のコメントを投稿しよう!