第4章 相乗り登校

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第4章 相乗り登校

武蔵野に深い秋がやってきた。 松岡祐二は初恋をする。 幼い頃の年上の女性に対する憧れの思慕ではなく、はっきりとした恋心を抱いた。 互いに、その想いを触れ合いさせた少年と少女の初めての恋愛だった。 同じクラスに、藤久美子という色白で小顔の綺麗な子がいた。 目は一重のキツネ目。 ただいつも微笑みを浮かべているので、穏やかで柔和な表情となって、愛らしさを引き立てている美少女。 祐二の初恋の相手。 乞食王子とマドンナ 久美子は、小学生なのに髪にパーマをかけ、着ている服も華やかでおしゃれな少女。家庭が裕福で、育ちの良さを感じさせる品の良い喋り方をする。 少女であっても、年頃のお嬢様のような振る舞いを自然にこなす。クラスで一番の美少女で人気も高い。同学年の男子全員が憧れているほどの、高嶺の花的な存在。だが、それがかえって異性との壁を作り、女王の久美子に近づく少年は誰もいなかった。 久美子は、部活の中で最も華やかなバレエクラブに所属していた。 同部を指導していたのが担任の先生でもあり、クラスの女子の多くはバレエクラブに入部していた。 授業が終わった教室は、バレエ部の練習場になる。 時々男子は、その練習風景を廊下側の窓から覗き見た。 目当ては、マドンナの久美子。 あるとき廊下側で覗き見る男子数人は、先生に見つかり「見たいなら男らしく中に入って見学しろ!」と大きな声で怒鳴られた。それでも先生は笑顔を作っていた。 女子部員はクスクスと笑った。 もぞもぞと少年たちはバレエ教室の隅に入り、直立不動の姿勢で突っ立って見学した。 白いタイツとバレエシューズを履き、バレエの練習着に身を包んだ少女たちは可憐に写る。中でも、頭にリボンをつけて躍動する久美子の姿は、ひと際華麗で目立っている。 先生の掛け声に合わせて、一同に少女たちが身を動かす。 すると男子の視線はリズミカルに動く手足、それに伴って揺れる胸や腰の動きに釘付けになる。 普段は見られない異性の躍動するしなやかな体幹に、一種の妖艶さを感じて興奮する心を押さえていた。 その中で久美子は、最も落ち着き払って堂々と振舞っている。 まさにマドンナとしての華やかさを一人醸し出していた。 常に笑みを浮かべて、余裕のポーズで踊り跳ねている。 その華奢な少女の手足は、ゼンマイ仕掛けの人形のように律動的な動きをする。 祐二は美少女の輝く美しさに魅入られるとともに、バレエの持つ芸術美にも感動していた。 一方、マドンナの久美子は、痩せこけた小柄な祐二に可愛いアイドルの面影を覚えていた。決してイケメンではないが、少女の胸を惹きつける不思議な色気を感じていた。 貧しい家庭らしく、いつも同じ服を着ている。 性格も鈍感なのか、従順なのか、冷やかされても虐められても反抗はしない。 黙って耐えている少年のニヒルな表情が気になっていた。 少年は、小顔で切れ上がった一重の目、高いけれど小さな鼻筋、アヒル口で可愛い笑顔を時折見せる。汚れた服を着ていても、どこか高貴で清潔感を伝える都会的な童顔。 久美子は、その顔も気に入っていた。 そう乞食と王子の物語、その乞食になった王子様のようにも思える。 覚えたてのオナニーをするときには、祐二少年の顔と痩せた体を思い浮かべていた。 少年は美少女のオナペットになっていた。 声援 ある日、体育の授業に長距離走の練習が行われた。 女子は校庭を一周する。男子は二周する。 運動会や普段の遊びの中で、およその順位が予想されている。 男子では、1位になるのは、スポーツ万能で級長を務める古藤純一か、あるいは、ガキ大将の坊主頭の今井健三だと皆が騒いでいた。特に、古藤は背が高く、髪の長さをミドルに伸ばしたおしゃれなイケメンの少年。圧倒的に女子の人気の的だった。 スポーツが不得意の祐二は、スタートで大きく遅れてしまった。 それもすぐに大差がついてしまい、早くも棄権する気配に見えた。 そもそも学業のテストの結果も、運動会の徒競走の順位にも、彼には全くこだわりがなかった。 この日も、黄色い声で男子に声援を送る女子の前を悠然と走っていた。 その時「松岡クン頑張って!」と、声が飛んできた。 ビックリして声の方向に顔を向けると、マドンナの久美子が手を振って声援を送っている。彼は走るのを止めるぐらいにスピードを落とし、その声援の送り主を再確認している。 (馬鹿!走るのよ!!) (藤久美子さんが僕を応援してくれている・・・) 初めてやる気に火が付いた。 長距離走はメンタルな部分の影響も大きい。 軽い体重の体も功を奏して、2周目に入る手前で後方の集団に追いついた。 すると何人かの女子が、その松岡のスパートに気が付いて声援を送った。 それは上位入線を期待するものではなく、最後まで放されずに走れという、判官贔屓の激励の声援だった。 それでも、その声援に気をよくした祐二は、2周目に入るとスイスイと抜き去り、中団まで追いついた。この彼の激走にさらに皆が注目した。 ゴール前に集合している女子は、体を反転させてゴールと反対側を走ってくる男子に目をやった。残りはあと半周。 トップを走るのは予想通り、古藤と今井。その後はかなり離れている。 二人はデッドヒートを繰り返している。 その状態に女子の応援の声は一層高まり、人気の古藤一色に染まっていた。 ところが、そこに猛然と迫ってくる祐二がいた。ものすごいラストスパートだ。 みるみる内に、二人に追いつきかけてくる。 既に先頭の二人は、最後のカーブを曲がろうとしている。 この祐二の急追に、女の子たちは騒然となった。 声援が一切に飛んだ。だが、それは声援ではなかった。 古藤が抜かれそうになる、悲鳴であった。 大歓声の中、3人が相次いでゴールインした。 結果は、一位古藤、二位今井、三位が祐二だった。 祐二は、大して息が上がってはいなかった。 上位の二人は、息も絶え絶えでその場にへたり込んだ。 この出来事で、長距離走に自信を持った祐二は、やがて中学生になると、クラブ活動で陸上部を選択することになる。 ただ、祐二が長距離走に強かった本当の理由は、その足腰の強さにあった。 そのことに、彼はまだ気が付いていない。 祐二は、久美子の姿を探した。 すぐに笑っている久美子を見つけた。 彼は飛び上がって、手を振って合図した。 ただ、久美子が嬉し泣きで流す涙には気が付いていない。 このときから、二人はその相手の存在をはっきりと胸に刻んだ。 特に、久美子は母性本能から貧しくどこか気弱そうな童顔の祐二に、暖かな思いを募らせていった。 少年も美少女も、互いにその心を奪われてゆく。 自転車登校 この頃から、祐二は両親に一層家事を強いられていた。 それは、順子が第二子の男子を産んだことが影響していた。 継母は、6歳となった長女の面倒と赤子の育児に追われた。 そのため祐二は、食器洗い、おつかい、風呂焚き、そうじなどに追われ、自由な時間がほとんど与えられていなかった。 相変わらず貧乏生活は続き、服は着の身、着のままで、冬には破けたままのセーター、ズボンは一年中同じ物で、ボロボロの汚れたもので過ごした。 子供の貧困とは、先ず未開発国の飢餓に瀕した人々を連想させる。 一方、途上国や先進国では、3食の食事がまともに摂ることができない、生活用品や文房具、着るものなどがなかなか買えない、給食費やPTA会費などが遅延していることが貧困の一例になる。まさに、祐二の松岡一家は貧困層に間違いがなかった。 友達は下校後に、外で自由に野原や公園に遊んだ。 だが、彼は家事労働に追われた。 遊ぶ時間もなく、宿題もまともにやる時間もなかった。 次第に、生まれた赤子のおしめの交換やミルクを飲ませることも強いられた。 子守では、赤子を乳母車に乗せながら街までお使いに出された。 戸倉新田から国立駅までの長時間の往復では、よく友達とすれ違った。 みすぼらしい恰好で、乳母車を押す姿を見られると失笑された。 それが女の子だった場合、一層恥ずかしい思いで、顔面は熱くなり手足が硬直した。 直近では、祐二の家事手伝いは登校前の朝でも行われ、そのため学校に遅刻することが頻発していた。通学時間は徒歩で30分ほどかかっていた。 いつもの通学路には、内藤新田と戸倉新田が交わる小さな十字路があった。 右折すると、学校に通ずる茶畑の生垣が続く。 左手の内藤新田からは、藤久美子が自転車で颯爽とやってくる。 彼女が遅く家を出てくる理由を祐二は知らなかった。 久美子もいつも遅刻寸前だった。 ただ自転車の分、遅刻は免れていた。 ある日の朝、いつものようにその十字路で久美子に出会った。 彼女は十字路に立ち止まって、ハンドルに手を添えながら少年が近づくのを待っていた。 「松岡クンお乗りなさい!」 「えっ、いいよ。歩くから」と、半分照れて断った。 「遠慮しないで、毎日遅刻ばかりなのだから」と言うと、赤いランドセルを背中から胸元に担ぎ直した。 「早く乗って!」 「ありがとう。でも大丈夫なの、二人乗りしたことあるの?」 「あるわよ、弟を乗せているから」 少年は、もぞもぞと自転車の荷台席に跨った。 サドルの下に両手をもぐらせて、それを掴んだ。 「乗ったよ!」 「じゃ行くわよ」と、少女は元気にペダルをこぎ出した。 祐二は、予期せぬ久美子の行動に驚くとともに、彼女のやさしさが飛び上がるほど嬉しかった。それも密かに、恋心を抱いているマドンナの久美子の親切心だ。 宙に舞い上がるほど幸福な気分に包まれて、二人を乗せた自転車は学校に向かって走り出した。 茶の木の垣根が長く続く道は、やがて小川の流れる広い道にぶつかる。 そこを左折すると、もう学校が突き当りに見えてくる。 あっと言う間に、相乗りした自転車は校門を駆け抜けた。 遅刻は免れた。 校庭と教室では、多くの学童が相乗りで登校してきた二人の姿に視線を注いでいた。 驚きのためか、一瞬の静寂に時が止まった。 その直後に、俄かに冷やかしの歓声が放された。 男女二人だけで、歩いて登校することはほとんど見かけない。 ましてやクラスメートの男女が、自転車の二人乗りで登校してきたのだ。 前代未聞の出来事といえた。 祐二は恥ずかしくて久美子の背に隠れるように、彼女の後ろに続いて校舎へと向かった。 教室に入ると、冷やかしの歓声は一段と高まった。 彼は泣きたいぐらいの気持ちで身を縮めていた。 だが、久美子は平然としていた。 それも笑顔を作って、にこやかに歩を進めている。 「カップルだ!」 と、男子の一人が大声で言い放った。 すると、男子はワァワァと気勢をあげ、女子はキャッキャと奇声をあげる。 それでも構わず、久美子は後ろにいる彼の手を握り、引っ張るように教室の前へと進んだ。そして、少年の席まで行き椅子に座らせた。 そこで、彼の頭を二、三度ゆっくりと撫でた。 少年は恥ずかしさの中で、何をされているのかよく分からなかった。 しかし、久美子のその奇矯的(ききょうてき)な謎の行為で、喧噪に包まれていた教室内は静まり返った。 どんな意味や効果があったのか。不思議に思えた。 彼女の少年に対する憐憫(れんびん)の情を示した行為なのか、それとも彼氏なのよと、級友たちに誇るための行為だったのか。 その夢のような出来事があって以来、久美子は毎日のように十字路に自転車を停めて、祐二を待っているようになった。 それが慣習となって続くうちに、クラスでは、二人の自転車の相乗り登校を認めたように、大騒ぎすることはなくなった。 ただ、朝礼前や昼休みには、相合傘のマークと二人の名前が黒板に書かれていた。 冷やかしと、やっかみのイタズラ書き。 それを見届けても、久美子は平然としている。 たまに、彼女はピンク色のチョークで、そのマークを丸で囲んで、わざと引き立てる行動をとった。 そうした久美子の勇気ある行動と、やさしい態度を目の当たりにする度に、少年の心の中では、彼女に対する思慕の気持ちがますます高まっていった。 初めて異性に対する強い思いが渦巻いていた。 幼い頃の異性に感じる憧れではない。 恋する思いに、独占したいと胸を焦がしていた。 毎日続くつらくて過酷な家庭生活の中で、久美子への初恋は生きる希望になっていった。 毎夜ふとんに潜り込むと、いつかあの美少女を抱きしめ、熱い口づけ交わしたいとそのシーンを夢想した。 その夢想は、たまらない疼きを生じさせて下半身を熱くさせる。 美少女の初体験 早朝から、小雨がしとしと降り続いていた日だった。 フードの付いたレインコートを羽織った久美子は、いつものように十字路で待っていた。少年と美少女は仲良しから一歩進んで、互いの恋心を強く確信して、愛を育む季節に入りつつあった。 「今日はボクが運転するよ」 小雨の日であることに気遣って言った。 二つ返事で「いいわ、運転して」 祐二がハンドルを握り、久美子は後ろに跨った。 いつもの茶の木が続く道を走った。 これまでは彼が後ろの席で、サドルの下を掴んで体の安定を図り、少女の体には触れないようにしていた。 その日、初めて後部席に座った久美子は、遠慮なく少年の腰に両手を回して、自らのバランスを取った。二人にとって、初めての強い触れ合いだった。 裕二は痺れた。 その感触はいつもの幸福な気分とは違い、祐二の体に熱い電流を走らせた。 すぐに少女を強く抱きしめたい、という衝動に駆られた。 心臓が大きく鼓動し、頭が白くなった。 思考力を失ったままペダルを漕いでいた。 その時、ハンドルを強く握っていた左手が雨に滑った。 ハンドルから手が外れ、片手運転になった。 すると、勢いで上半身が左側に揺れて傾いた。 故意に、手が滑ったのかもしれなかった。 ふとんの中で夢見た、具体的な抱擁のシーンが脳裏をかすめていたのだ。 二人の体は、バランスを崩した。 自転車は、左に大きく傾いて茶の木に倒れ込んだ。 茶の木は、高さも横幅も1メートルぐらいある。 丸く刈られた茶葉は、程よいクッションになっていて、怪我をする危険がないことを知っていた。 二人は、茶の木に少し潜る程度で横向きに乗りかかっている。 「ゴメン、手が滑った」 二人はその衝撃よりも、この突然のアクシデントを予期していたように笑顔だった。 祐二が、茶の木から滑るように先に降りた。 そして、よけいに埋もれていた久美子に手を差し伸べた。 彼女は甘えるように、両手を差し出してきた。 茶の木に足を踏み入れて、少年は彼女が掲げた両手の下にある細い上半身を屈んで抱きかかえた。 そして、ゆっくりと引っ張り上げた。 思った以上に、美少女は痩せていて軽い。 彼は、自分が強い男になった気分になった。 二人は抱き合って、畑地側の茶の木の脇に立った。 小雨が冷たく、二人の頬を濡らしていた。 声を出さずに見つめ合った。 久美子の濡れる唇を見た。 裕二は口付けをしたかった。だが、一瞬ためらった。 彼女の瞳が、静かに閉じられた気がした。 次の瞬間、強く少女を抱きしめていた。 渾身の力をこめ、華奢な美少女の体を両腕で、野獣のように腕を絞って強く抱いた。 「苦しい」と、耳元で囁かれた。 「ゴメン」 「いいのよ、松岡クンのこと好きだから」 「ボクも藤さんのこと好きです」と言って、もう一度久美子を抱き寄せた。 その時に二人の顔が近づき、かすかに互いの濡れた唇が触れたようだった。 体が熱くなっていた。だが、映画で見たような大人のキスはできなかった。 抱き合って、何度も頬ずりをしていた。 きつく抱き寄せるたびに、少女の胸を強く圧迫していた。 胸の膨らみは僅かだったが、男のそれとは明らかに異なる柔らかな蕾を感じた。 服の上からとはいえ、敏感な蕾を刺激されて、微かに吐息を漏らしていた。 それを耳元で感じると、少年は自分の体を美少女の体に押し付けた。 顔が触れ合い、体もこすれ合っている。 二人は「はぁ、はぁ」と、荒い息を吐いていた。 畑地に、久美子を押し倒した。 その上に覆いかぶさると、唇を重ねた。 唇を開かせて、舌を彼女の口内に押し入れた。 夢に見た初恋の美少女との、本格的なキスだった。 甘美な電流が二人の全身を貫き、共に震えた。 美少女の舌も少年の舌を巻き、口内に引っ張り込んだ。強く吸い込んでいる。 息がつまりそうだったが、快感がそれを上回った。 レインコートを脱がして、少女の体の下に敷いた。 少女は顔が雨に濡れるのを嫌って、両手で顔を覆った。 目を瞑って、祐二のすることを待った。 白いショーツが剥ぎ取られ、小雨降る茶畑の傍らで、恋する少年と少女は初めて体を結んだ。 重ねた体を離すと、放心している美少女を抱き起こした。 そして茶畑の陰に隠れて後ろ向きにさせ、畑の土に汚れた体をハンカチで拭いてあげた。小ぶりの尻をスカートの下に隠すと、前を向かせておもむろに口づけを交わした。 その日は、二人とも遅刻になった。 教室に入った久美子の顔には、いつもの笑顔が消えていた。 それでも心は、愛されて結ばれたことに充実していた。 そして、今も火照っている体は女の喜びに震えていた。 その後、久美子は自転車通学を止めた。 そのため、二人で登校することもなくなった。 二人は意識して、仲良くする振る舞いを校内では止めた。 卒業するまでの間、彼女は部活を休んでは、隠れるように祐二と逢引きを重ねた。 デートの場所は、図書館、公民館、国立駅の飲食街や公園だった。 費用はいつも久美子が出した。彼女は彼の家が貧乏であることを十分承知していた。 時々、見かねて文房具や靴下なども買ってくれた。 こうして、裕福な美少女と貧しい少年の初恋は続いた。 祐二は親から、家事があるので下校後は、真っすぐ帰宅するように命じられていた。 しかし、初恋の美少女に逢いたさと見たさにその禁を破った。 初めての反抗でもあった。 彼は家庭でも、少女との付き合いを一切口にしなかった。 遅くなって帰宅した時も、何をしていたのかと詰問されたが、黙り込んで何も答えなかった。 その度に、父や継母からは怒鳴られた。暴力も受けることもあった。 深夜まで両親の寝床の傍で正座をさせられ、姿勢が崩れると父親の鉄拳で殴られた。 祐二は、やさしい久美子の笑顔を思い浮かべて、親の折檻に耐えるのだった。 やがて小学校を卒業すると、藤久美子は私立の女学校に入学し、祐二は町立の国分寺第一中学校に入学した。 そのため、二人は逢う機会がなくなってきた。 さらに夏休みに入って、祐二はいつもの家庭の事情で引っ越しをすることになった。 別れの言葉を交わすこともないまま、二人は別れ離れになった。 船橋市の中学校に転向した祐二は、すぐに久美子に手紙を送った。 だが、何故か返事がなかった。 後で知ったことだが彼女も父親の転勤で、神奈川県の小田原市に転居していたのだった。 こうして、半年ほど続いた二人の初恋物語は終わった。
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