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第6章 恋する二人
1963年(昭和38年)の4月、恋する裕二と亮子は中学3年生になった。
松下庄作一家は、相変わらず貧しい暮らしが続き、父の暴力による折檻も続いていた。
それでも愛おしい彼女ができて、裕二を励ましてその心を支えてくれている。
亮子の純真の母性から生まれる、美しい微笑みの顔が痛む裕二の心の支えだった。
谷津遊園
そんな裕二を少しでも明るくさせるために、亮子は『谷津遊園』へのデート誘った。
勿論、その費用は彼女が負担する。
問題は、裕二が両親の許可を得られるかにあった。
正直に女の子とデートすると言えば、頭ごなしに拒絶されるのは必須だった。
裕二は、恋のために嘘をついた。
級友の男子に<ハト飛ばしに同道してくれ>と、頼まれたと作り話を理由にした。
当時は子供に限らず、伝書バトを飼育することが流行していた。
ハト(鳩)に脚管を付け、遠方から飛ばして自宅のハト小屋まで帰還させるのである。
この理由が功を奏して、裕二と亮子は初デートの谷津遊園に向かうのだった。
当時の千葉県では、この「谷津遊園」と「船橋ヘルセンター」が二大行楽地であった。
入場料は谷津遊園の方が安いとともに、二人の自宅と学校の最寄り駅である京成・葛飾駅(現在の京成・西船駅)から15分ほどで到着する。
その谷津遊園は、その京成電鉄が経営している。
1982年(昭和57年)に閉園して、今は「谷津バラ園」となっている。
当時は海辺近くにあって、潮干狩りや海水浴もできた行楽地であった。
2人は日焼けすると嘘がばれるので潮干狩りや海水浴は避けて、シンボル的な乗り物であった観覧車に乗った。
そこで2人だけで思い切り抱き合い、貪るように長い口づけを交わした。
そしてレストランで、2人だけの食事をしてサイダーも飲んだ。
その後には、洞窟の中の長いトンネルを探検した。
行きかう人達がなくなると、その洞窟の岩壁に寄り添って長い立ちキスを続けた。
裕二は夢中になりすぎて、服の上から亮子の胸の膨らみを鷲掴みにして揉み上げる。
キスと胸への愛撫に、亮子は身をよじってその快楽の喜びを示すのだった。
体育祭
中学校の体育祭は、雲ひとつない秋晴れの日だった。
高台にある校舎で昼食をとった生徒達は、三々五々、下のグランドへと向かった。
祐二は、折檻の後遺症で右手の指を怪我していた。
教室で一人居残り、包帯を片手で巻いていた。
だが利き手が使えないため、予想外に時間がかかっていた。
そのとき、亮子が突然に目の前に現われた。
「巻いてあげる!」
短くそう言うと、顔をうつむき加減にして甲斐甲斐しく、丁寧に包帯を巻き直してくれた。
荒んだ家庭にあって、祐二が恋心を抱いている亮子は、唯一の生きる希望の星。
彼女はとてもハニカミ屋で、何事にも控えめな性格。
素直な心根が清純にも写ったが、そのストレートで直情的な感情を普段は押え秘めていた。
祐二がそのことを知ったのは、ラブレター事件だった。
祐二が級友の男子に頼まれ、ラブレターを代筆して、男子に代わって亮子に愛の告白文を手渡した。その後、彼女は祐二宛てに手紙を書いて寄越した。
そこには、驚きの檄文が綴られていた。
冒頭に、はっきりとその級友は『嫌いだ』と書かれていた。
さらに、祐二に対して感情をむき出しにして『二度と代筆をするな』と、彼の代筆を見破るとともに『好きな男が代筆したラブレターを受け取った乙女の心がどんな気持ちなのか、判らないのか』と、激昂の内容が認められていた。
祐二は驚いた。
自分のことを好きだ、と明言されたことも飛び上がるほどに嬉しかった。
それでも相思相愛の想いは既に確認していたから、そのことは試験問題の正解をもらった感覚だった。
もっと驚いたのは、その自分の感情を大胆にぶつけてきた少女の情念だった。
普段の大人しく清楚なイメージからは、想像できないものだった。
大農の9女に生まれ経済的な苦労も知らず、大家族の末っ子にあった純朴さと、それに反して異性に対する強い想いとが、彼には予期せぬアンバランスに映った。
かくして若い二人の恋愛模様は、すでに肉体的に結ばれる限界点に達していた。
校舎の坂下にあるグランドからは、体育祭の大歓声が遠く響き、静まり返った教室には2人しかいない。
祐二はいつのまにか、亮子の腰にそっと左手を回していた。
教室は静寂に包まれ、心臓の鼓動が聞こえるのではないかと思うほど、胸の高鳴りは激しくなっていた。
裕二は心の中で、亮子を抱いて男の本望を遂げるのは今日しかないと決意した。
彼は、少女の広い額にゆっくりと軽い接吻をした。
すぐ顔を離すと、少女の潤んだ瞳がじっと彼の顔を捉えていた。
彼を見つめるその表情は、それまで見たことのない美しさに満ち溢れていた。
次の瞬間、どちらともなく顔を近づけて唇を合わせた。
二人の唇は震えながらも、互いを激しく求め合った。
それは1分にも満たない短い時間だったが、その甘美な感触は永遠に続くかのように感じられた。
少年の胸が、少女の胸のふくらみを押さえ、立ち姿で強く抱きしめた。
再び、唇を重ね合わせた。
今度は、思い切り舌を吸い込んだ。呻き声がもれた。
いつの間にか、少女の舌も少年の口の中を這っていた。
一瞬たじろいだが、すぐに甘露の媚薬に酔っていった。
少女の舌は、蛇のようにとぐろを巻き少年の舌を絞めた。
若き二人の体の中で、情炎が蠢動(しゅんどう)していた。
思春期の二人の体は、もう限界だった。
少年は少女を床に押し倒すと、そばにあった制服を手に取り、彼女の腰の下にそれを敷いた。
「私、ハト胸出ちっりなの・・・」
いつもの亮子の口癖の言葉が聞こえた。
仰向けに寝ても、乳房のあたりは少女なりに十分隆起していた。
乳房が大きいというよりも、胸全体が大きい。
性急に体操着を脱がして、ブラジャーも取り外した。
白い清らかな上半身が輝いていた。
少女は、なされるまま静かに待った。
愛おしい女を自分のものにするための、憧れの儀式が始まろうとしている。
少女の体操着のショートパンツを脱がすと、白い清楚なスキャンティも一気に足元から抜いた。すぐに少年と少女は重なり抱き合った。
「あっあっ」
初めて少女が呻いた。
少年は勝ち誇ったように少女の頬を両手で挟み、あごを突き出させると熱い口付けを交わした。
「亮子さん」と呼んだ。
少女の虚ろな瞳が彼を見る。
(もう射止めて欲しいの)そう訴えていた。
「祐二、大好き!」
少女の両腕が少年の肩に回された。
しばらくして「祐二!!」と大きな声を発して、野菊の少女は喜びの声をあげた。
少女の長い黒髪が西日に照らされて、光り輝くのを祐二は見つめていた。
まるで生きているように、その黒髪は艶めかしい。
祐二の脳裏に、この光景が強く焼き付いた。
この初めての感動と喜びに、しばらく二人は放心状態でいた。
やがて体を離すと、彼は少女のブラジャーと体操着を着つけてあげる。
「ありがとう、やさしいわね。私の祐二!」
いつもは「松岡君」と呼ばれていたが、名前を呼びつけにされたのは、この日が初めてだった。こうして静まり返った教室の中で、愛し合う二人は初めて結ばれた。
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