第7章 こんなのってまるで、十五歳の冒険

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第7章 こんなのってまるで、十五歳の冒険

大昔喫茶店だったらしいその古い廃墟が、通りすがりの旅の子たちにとって便利な宿泊所になってるというアスハの読みはどうやら当たっていたようだ。 つい最近も誰かが使っていたことは、居住スペースに残ってる足跡の感じからもわかってたけど。店舗の調理場にコンクリの塊を上手いこと積んで拵えた竈があって、そこで薪を焚けば肉や魚を焼いたり飯盒で煮炊きが出来るようにちゃっかり改造されていた。当然のように火を焚いた跡があり、みんなここで調理をしてる様子だ。 「窓を開けて換気しないと煙が部屋中にこもるけど、そこさえ気をつければまあまあ何とかなりそうだな。庭で適当に石を積んで簡易的なこういうの作ろうかと思ってたけど、その手間が省けた」 「ほぇ。…みんな、旅慣れてるんだね」 当たり前のように食事を煮炊きしようと考える生活力に素直に感心する。 わたしなんか、今日はまだ村で持たされた保存食で間に合うな。とかのんびり構えてたのに。 と正直に打ち明けると、アスハは別にそんなわたしを馬鹿にするでもなく、ちゃきちゃきと家の中の探索をさらに続けながら生真面目な声で答えた。 「おばさんが持たせてくれたおにぎりは確かに今日中に食べないとな。でも、さっきも言ってたけど干し肉やパンや芋なんかは出来たらもう少し保たせたい。こういう風に煮炊きできない場所に今後泊まることもあるはずだし、そういうときに保存食は重宝だから」 「なるほど。それはそうだね」 わたしは納得してこくこくと頷く。先人の見識には多分大人しく従うのが吉だ。 泊まれる適当な空き家がないときは山に入ってテントを張る日もある、と聞いてる。そういうとき必ずしもいちいちかまどを作ったりする余裕がない場合もあるだろうし。天気が悪くて雨で湿気てたりすると火を上手く起せないことだってあるかもしれない。 こんな風に天候に左右されず、安全に煮炊きできるゆったりしたスペースがあるのは貴重なんだ。そう考えたらこいつの言ってることも充分説得力がある。 こういう造りなら、店の出入り口とは別に居住スペースから直に外に出られる勝手口がありそうなもんだけど。と呟きながら、アスハはリビングからさらに奥へと進んでいった。 「…あ。洗面台と風呂場だ。てか、ましろ。ちょっとこっち来て。見てみなよこれ」 珍しく驚いたような声音を上げ、振り向いてこっちに向けて手招きしてみせる。 「浴槽、全然埃ついてなくてやけにきれいじゃないか。これ多分普段使われてるよ。水を入れて薪で沸かせるように改造されてるな、誰かの手で」 外に出てみればわかると思うけど。と言ってまた勝手口を探そうと浴室を出ていく彼と入れ替わりに、わたしも浴槽の上から屈んで中を覗き込んで状態を確かめた。 「ああ。…この形式ならうちのも薪用に作り替えられてるから。もともとはガス風呂だったんだろうけど、今どきプロパンガスなんて手に入らないもんね」 みんな大昔に建った家を何とか改造して今でも問題なく使えるようにして住んでるから。ガス釜の風呂を薪式にするなんて、その気になればお手のものだと思う。少なくともうちの村ではみんなそうして引き続き昔の風呂を使ってるし。 そう言ったわたしの台詞に、ドアやっぱりあった。と内鍵を回して開けながら彼は受け応えた。 「薪の風呂に改装するのはまあ、どこでもやってるから多分難しくはないだろうけど。単に通りすがりの旅の連中が使うってだけの宿泊所にそこまで手をかけたって理由の方だよね。あえてわざわざこの建物の風呂をこうやって使えるようにしてあるって事実から読み取れることもあるだろ。つまりさ、風呂を沸かせるくらいの量の水がここではどうにかして手に入るはずだ。…ってこと」 「あ。…本当だ、そうだよね」 迂闊。確かにそこは重要だ。 指摘されてようやく気づいてはっとなったわたしの呑気さにもほどがあるし、どうかしてるとは思うけど。旅初心者でまだまだ余裕がないから、いろんなことに気が回らないのは仕方ない。と自分で自分に心の中で言い訳した。 アスハはがちゃり、と音を立ててドアノブを回し扉を押し開けながら、慎重に外の様子を窺いつつ恐るおそるそこから顔を出す。 「風呂がリフォームされてるってだけじゃなく、つい最近も明らかに使われた形跡があるし。てことは、浴槽を満たして沸かせるくらいには水をどっかから持って来られるってことじゃないか?定住してる人がいそうな感じでもないから、一夜の宿を借りた旅人でも普通にわかりそうな場所に水を確保できる手段があるんだよ、きっと」 「おお。…村を出てきた早々、まさか今夜には早くも入浴できるとは。期待してなかったから」 これはラッキー。…でも、水を送ってくるパイプも浴室には見当たらなかったし。一体どこから、どうやって? 靴を履いたままなので問題なく勝手口から建物の裏に出て、周辺を見渡す。そしてすぐにそこにあった装置に二人とも目が留まった。
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