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 駅裏の石塀に囲まれた小路に入ると、表通りの喧騒(けんそう)はスっと消え、さわさわと風になびく草木の音や、鳥のさえずりに包まれた。  この道が永遠に続いていたらいいのに。  そんなことを考えてしまうほど、この空間は心地がいい。  だけど、小路の終わりは見えている。  惜しみながら一歩一歩、木漏れ日がきらきらと揺れる砂利(じゃり)道を進んで小路を抜けた私は、思わず足を止めた。  団子屋の向かいに、なにか、いる。  人ではないモノ。  ――鬼だ。  春の日差しの中に、ぽつんと、鬼が立っている。  豆まきのときに見るような赤い鬼ではない。  春の空に灰色を混ぜたような色――今にも泣き出しそうな、雨雲に似た色の鬼だ。  そんな色をしているからだろうか、鬼の立ち姿は儚げだった。  春の日差しに解けていってしまいそうなその鬼は、(せつ)(した)わしげな眼差しで、団子屋をじっと見つめている。  団子屋では、おばちゃんが通りに背を向けて、暖簾(のれん)を下ろそうとしていた。  午前の営業を終えて、昼休憩に入る準備をしているのだ。  私は、心臓がドクドクと高鳴っているのを感じながら、石塀の陰で息を潜めて、鬼とおばちゃんを注視した。  鬼があの場所から動きませんようにと祈りながら。
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