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その晩、私があんまり怖がるからか、おばちゃんは、私の布団に一緒に入って横になると、穏やかな声音で語り始めた。
「私があんたくらい小さい頃ね、山を探検していたら、湖のほとりで泣いている鬼がいたんだよ」
「泣いてる鬼……赤鬼?」
「そんなハッキリした色はしてなかったね。灰色っぽい青色で、なんだか、湖に解けていってしまいそうな、か弱いオーラの鬼だったよ」
「弱いから泣いてたの?」
「その逆だね」
「逆?」
おばちゃんは、昔を懐かしむ穏やかな顔で、ふふと笑った。
「その鬼ね、花を踏んで折っちゃったって泣いてたんだよ。折れた花を胸に抱えてさ、『こんなに綺麗に咲いていたのに、オレのせいで可哀想に』って。
種を植れば花はまた咲くよ、大丈夫だよって言っても、『この花はオレのせいで枯れるんだ』って、わんわん泣いてね。あんまり痛々しい声で泣くもんだから、その花を押し花にして渡してやったら、懐かれちゃってね」
「鬼に、つきまとわれたの?」
「そういう表現は正しくないね。私たちは、友だちだったんだよ」
「友だち……。鬼と?」
「そうだよ。親友や兄弟といっても過言じゃないくらい、私は、その鬼に心を寄せていたんだ」
おばちゃんは、私の頭を優しくなでながら話を続けた。
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