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 週末、僕は軍需工場の資料館に向かった。  ここには写真や文書、手紙、工場で作っていた物などが展示され、貴重な戦争資料として当時の様子がありありとわかる。 「あの桜並木だ」  僕が食い入るように見ていると、ここのボランティアの女性がやってきた。 「あの桜並木は軍需工場の完成を記念して植えられたんですよ」 「え?そうなんですか?」 「日本では桜と戦争は深い結びつきがあるんですよ。人々は散る桜に自分の人生をなぞらえてました」 「…それで桜の木を」 「ええ。その頃はまだ若木でしたけど、ソメイヨシノは生長が早いから、数年で咲くんです」 「そんなに早く」 「そう、工場で働いていた子たちも桜が咲くのを本当に楽しみにしてたということですよ」 「で、桜の開花を見ることができたんですか?」 「ええ…」 「それは良かった」 「でも、それもつかの間のこと。ちょうど桜がきれいに咲いた頃、あの空襲がやってきて」 「あー、そうか…」  僕は天を仰いだ。
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