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少し力を入れただけで肉が綺麗に割ける。中もしっかり火が通った褐色だ、じんわりと肉汁が溢れている。こういう肉汁が滴る肉は食べた事がなかったし、油もたっぷりな料理なんて初めてだ。一口口に入れてみる。
「とても噛みやすいし、噛めば噛むほど肉汁がどんどん出てくるぞ。調味料も甘酢っぱくて良い。醤油にしては濃ゆいな」
口の中でふうわりと肉が溶けていく感覚が舌の上から伝わって来る。こんな肉料理食べれるなんてなんて豪華なんだ。
「野菜も食べてみよう」
ゴロッと切られた人参に箸を伸ばすが、まるで豆腐のようにぷすっと刺さってしまう。どうやったら人参をこんなに柔らかく調理出来るんだ?
「この人参、よく火が通されてるな、芯まで柔らかいし、味がとても染み出している。実に豪華な物を食べさせて貰いましたよ」
「まさかコンビニの惣菜でこんな喜んでもらえるとは思いませんでしたよ。気になったんですが、明美と言ってましたけど」
「娘ですよ、それがどうかしました?」
「祖母と同じ名前です!」
意外だ。僕の娘と同じ名前だなんて、ここでもそういう事はよくあるんだな。
「そちらのあけみさんは、どう書きます?」
「明るいに美しいと書きます」
「生年月日などはご存じでしょうか」
「昭和十九年生まれと聞いてますが」
名前も生年月日も僕の娘と一緒じゃないか。驚いたな。待てよ藤崎るかさんは僕の曾孫に当たる存在で、僕は彼女の曾祖父という事になるじゃないか。
「まさか」
「ひいおじいちゃんだったんだ、本郷さん」
「藤崎さんが、僕の曾孫? お祖母さんに合わせて貰えますか?」
「もう無理ですよ、他界してるから。でも明美お祖母ちゃんに何か伝言があるなら伝えておきますよ」
『ずっと寂しい思いをさせてしまった。たくさん苦労をかけて来た。父親らしい事何一つ出来なくて本当に申し訳ない。広島では原爆を落とされ苦しかっただろう。せめて、結婚式で白無垢を着る所、見てみたかったなあ。それでも僕は明美の事を忘れた事はない。これからも愛してるよ。本郷平次郎』
「本郷さん、お祖母ちゃんに伝言伝えておきますね。ついでにお墓参りしていきますか?」
「いや、娘がびっくりするよ。本当に良い思い出を貰った。それで充分だ、ずっとあなたの事を見守っています。例えここに、いなくても、だから幸せになって下さい」
了
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