昭和の僕と令和の君

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「これがこんびに?」 まず折り畳める傘が千円という破格の値段で売られており、こーしーを注ぐ機械がどんと会計に設置されてある。これも百円だが結構な値段だ。海軍ではこーしーを飲んでいたが、こんびにのこーしーは美味いのだろうか。それだけじゃない、たばこや、足袋に手拭い、くすりなど実にさまざまな商品が陳列している。そこで僕はある物を見付けた。 「『艦これ』だと?」 小さな紙の箱に戦艦を担いだ女学生の人形が入っている。僕の知る女学生とは異なり、顔もふっくらしていて表情も明るい、そして胸が大きいではないか。確か、みんな栄養不足で痩せていたと思うがどれも肉付きが良い。 大和、時雨、武蔵、初風、浜風、時津風から天津風、響、扶桑、山城、赤城、陸奥、日向、長門、そして僕が乗った雪風まである。 「僕が乗っていた戦艦だ」 「艦これの雪風ご存じなんですか?」 「勿論、陽炎型駆逐艦の八番艦で、初風や谷風、浜風と一緒に戦った。兵装も細部まで丁寧に作られている寺内艦長はご無事だろうか」 「詳しいんだ、意外」 「寺内正道艦長は千九百四十五年の雪風艦長だ。これ買おう、三百円か。高いなあ」 「そうですか安いと思いますが、それより食べ物買いに来たんですよね」 「そうだった、僕はおにぎりが良いんだ」 「おにぎりで良いんですか? パンとかパスタとかあるんですが」 「出来れば銀しゃりのおにぎりが食べたい」 こんびにの中を探索しているとおにぎりが陳列している商品棚に到着した。なんという事だ。令和のおにぎりは、全て銀しゃりじゃないか。鮭、梅、おかか、昆布、しーちきんまよという欧米の言葉で出来たおにぎりもある。 「このしーちきんまよとは?」 「シーチキン、つまり鮪のお肉とマヨネーズという調味料を合わせたものです」 「まよねいず、欧米の調味料か。僕としては何もつけていない普通のおにぎりが食べたい」 「塩むすびならありますよ」 僕は二千円で塩むすびと鮭のおにぎり、それから艦これの人形を買うことにしたが、会計の女性が言うには二千円では買えないと門前払いされてしまう。 「ちゃんと二千円払っただろう。どうして買えないんだ。おかしいだろう」 「昭和二十年の二千円は使えないみたいですね、ここは私が払います」 藤崎さんはそう言って令和五年の千円札を二枚出してくれた。
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