昭和の僕と令和の君

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「壱で縦に引っ張り、弐、参で左右に、おお綺麗に海苔が巻かれた状態で出てきたぞっ!」 僕でも簡単に開けられた、そしておむすびのお米がまるで炊きたての銀しゃりのように、ふっくらしていて柔らかく、つやつやと輝いている。海苔もおむすびにべとついておらず、持ちやすい。一口齧ってみる。 「これはっ!」 海苔のパリッとした歯ごたえが新鮮だ。お米ももちもちとしており、米特有の旨味が噛めば噛むほど広がって来る。令和のおむすびはこんなに美味かったとは驚きだ。 広島の家族も、こういうご飯食べたかっただろうな。原爆で店という店を焼かれ、何も食べれなくなったんだ。なのに、僕一人だけがこうして活かされ、美味しいおむすびにありつくのというのはとても罰当たりな気がする。自分一人だけがのうのうと生き延びて何事もなかったように飯を喰うのは大日本帝国人の恥だ、国の為に働け、その為に江田島兵学校に通わせたんだと親父は起こるかもしれない。わかってる、学校でカッターシャツや軍服着させるのは卒業したら戦争で活躍する軍人になれ、国の為に名誉の戦死を遂げて来いという大日本帝国政府の意図があったんだ。それでも本当にごめん、許して欲しい、生き延びる事を。そんな事を考えていると瞳から熱いものが流れて来た。 「くそ、泣くもんか! 絶対に……」 江田島の兵学校では、男は「泣くな」「逃げるな」「弱音を吐くな」と厳しく教えられて来た。泣いてたら男じゃない、精神が弱い奴は大日本帝国には必要ないと酷く罵られる。だからどんなに訓練が辛かろうが、どんなに悲しかろうが、泣くのをずっと堪えて来たんだ。それなのに、涙が止まらない。 「本郷さん」 「それ以上は言わないでくれ!」 「はい、これ使って下さいね」藤崎さんは、僕の後ろからはんけちを差し出してくれた「悲しかったら泣いていいんですよ」 「有り難う。本当に男がそんな事をやっていいんですか? 女性の前で泣きべそをかくなんて」 「いいんです、嫌だったら逃げて良い、泣いて良い、辞めて良いんですよ」 「そうなんですね、それにしてもこんびにのおむすびがこんなに美味いとは感激です」 「コンビニのおむすびに感激する人、私初めて見ました。ここではみんな当たり前のように食べてますけど」
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