昭和の僕と令和の君

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「令和の人、そうなんだ。実に羨ましいな、美味しい物を当たり前のように食べれて、泣いても怒られないとは、幸せじゃないですか」 「本郷さんには、そう映りますか?」 「僕にとっては。塩むすび食べたらまた腹が減って来たな。今度は鮭むすび食べてみよう」 おかずの入ったおむすびなんて滅多に食べられなかったんだ。しかも鮭だ。ここではごく当たり前に食べられる普通の食事なんだろうが、僕にとってはそれだけで充分にご馳走なんだ。塩むすびで放送の開け方は覚えたから、後は簡単。番号の通りに引っ張ってと。 三角形に巻かれた海苔を上から勢いよく齧りついてみる。 「鮭の身がこんなに解れていて、骨がない。ほんのり塩味がきいて、ご飯が進むじゃないか。こんなものが食べられるなんて贅沢の極みだよ。美味い、美味い!」 「なんだか食レポ、いやおむすび食べてこんな感想いう人珍しいですよ今時」 「そうなんですか? しかしこれ贅沢過ぎますよっ!」 「贅沢というならラーメンとかケーキやカヌレがここではそう言われていますよ」 「でも贅沢が少し怖いかも知れないな」 親父から聞いた話、戦艦には人間魚雷という兵装が積まれていて、中に人が入って敵戦艦に突っ込むというものだ。戦闘機の特攻を海でやったような戦法といえば最適解かも知れないが、これに搭乗した人間は「死ぬ事を前提にしている」つまり生きて日本に帰れないんだ。だから死ぬのであれば、悔いを残さないように、やりたい事を無料でさせてもらえる。映画も無料、食べたい料理も無料で腹一杯になるまで食べさせて貰えるなど。ここまで贅沢をさせて貰っていると、いずれ僕は死ぬのかも知れないと思ってしまった。 「怖いですか、わたしには贅沢には見えませんけれど。それから凄くお腹空いてるのにおむすび二つで足りるんですか?」 「これ以上の贅沢は……」 欲しがる事は禁忌とされて来た、欲しくても戦争で勝つまではずっと我慢しなくてはいけなかったんだ。欲しがりません勝つまでは、月月火水木金金の精神でずっと我慢してきた。しかし、ここでは欲しがる事は罪にならないのか? いくら欲しがっても? 「もっと栄養のある物を食べたほうが良いですよ本郷さん」 「良いんですか? 欲しがっても」
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