お腹がすいた二人

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 お腹が空いた。ああ、愛する君を早く食べてしまいたい。 「ユージ?」 「なんでもないよ。リリカ」 「そう?夕食できたよ。初めてだから、その、口に合わなかったら」  付き合う彼氏に初めて食事を振る舞うのに緊張したようすのリリカが口ごもった。かわいい。ユージは微笑ましくなり笑う。 「ごめん。おかしくて笑ったんじゃないんだ、リリカ頑張ったんだなあって。だって手の絆創膏、俺の勘違いじゃなきゃ料理の練習で怪我したんだろう?」 「あっ、見えてたの。消毒はしてるし、衛生には気をつけてるんだよ」 「うん」  必死に言い訳する仕草さえもかわいい。 ユージは胸を暖かくする。昔からしっかりしている女の子よりミスをしてしまう女の子のほうが好みなのだ。自立心がある女性が悪いだなんて思わないけどドジをしてしまう女性は助けてあげたくなってしまう。  思い返せばリリカと大学で出会ったきっかけもリリカのドジだ。 「ご、ごめんなさい!」 「いや、前見てなかった俺も悪かった」  服にしみつくオレンジは、リリカとユージを繋いでくれた。涙目になってこぼれたジュースのシミを拭き取ろうとするリリカにときめいたものだ。染み抜き、クリーニングに出す選択肢を忘れていたのか、思い浮かばなかったのか。  とにかく人を好きになるきっかけはどこに転がってるのか分からない。 「はい、熱いうちにどうぞ」 「いただきます」  ユージは熱いビーフシチューを頬張った。 「おいしい」 「ほんと?」 「本当だって。ちょうどお腹がすいてたんだ、この、肉も食べたことないくらい柔らかくておいしいよ」 「よかった」  安心した表情のリリカはユージにとってかわいくておいしそうだ。あふれただ液をごまかすためにどんどん食べる。吸血鬼にとってリリカみたいな健康的でちょっと抜けているタイプの血は美味いんだよな。  ユージはこの後、吸血する時を思って内心舌なめずりをした。早く悲鳴と一緒に新鮮な血液を味わいたい。 「お茶とってくるね」  席を立ったリリカはキッチンに行ってうっとりした。丁寧に研いでいた包丁を取り出す。  ユージを捌くにはどれが最適だろうか、柳刃包丁?牛刀?ユージは優しくて少し鈍感、健康的で殺人鬼としてのリリカの好みにぴったり合っている。大学でユージに会ったのは柄でもなく運命を感じた。 「ああ、お腹がすいた」  やはり睡眠薬で眠らせてからのほうがスムーズにいきそうかもしれない、苦痛を与えるのはだめだ、好き好き大好き、ひとつになってずっと一緒にいようね。 リリカはこの後、ユージを調理する時を思って内心舌なめずりした。
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