だからアドバイスを聞けっての。

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だからアドバイスを聞けっての。

~十二時二十七分~  何とかお目当ての定食屋に辿り着いた。葵が顔を上げる。そうして鼻をひくつかせた。 「おぉ、待望の飯だ」  むんっ、と気合いを入れて私から離れた。よろよろと入口の暖簾をくぐる。最後の力を振り絞っているとよくわかる。  お昼時にも関わらず待たずに席へ通された。平日様々ね。向かいに腰掛けメニューを眺める。 「私、蕎麦。大盛りで」  耳を疑う台詞が飛び込んできた。ちょっと、と慌てて止める。 「大盛りはやめなさい。胃は空っぽなだけで大きくなったわけじゃないんだから」  しかし葵は首を振った。今日は頑固ね。 「この空腹は尋常じゃない。それに私が大盛りを頼める貴重な機会だぞ。逃す手はない」  絶対に譲らないな、と確信する。普段、少食と言われているのを葵は意外と気にしている。だから大盛りを食べる様を写真に収めて記念にする気だ。  すみません、と店員さんを呼ぶ。 「このご当地蕎麦の冷やを、大盛りで」  葵は堂々と頼んだ。 「それをミニ丼セットにして下さい」  すぐに口を挟む。店員さんがいなくなった後、腹減ってないのか、と私の顔を覗き込んだ。 「恭子がミニ丼なんて珍しいじゃんか」  肩を竦めて答えに代える。これじゃ普段と反対だな、と相方は笑顔を浮かべた。  二十分後。  葵が箸を置いた。無言で蕎麦の盛られた器を見詰めている。まだ半分以上残っているわね。普通盛り分も食べていない気がする。とっくにミニ丼を食べ終えた私は、どうしたの、と声を掛けた。意地の悪さが滲まないよう気を付けながら。  此方へ上目遣いの視線を寄越した葵は。 「……お腹いっぱいになっちゃった」  わざとらしく溜め息を吐くと泣きそうな顔になる。 「どうしよう、腹一杯だ。だけど食べ物は残したくない。婆ちゃんにそう教わった」  どんだけ素直なのよ。それはともかく。 「しょうがないわね。私、いただくわ」  申し出ると、まさか、と目を丸くした。 「お前、こうなることを見越してミニ丼にしたのか?」 「そうよ。あんたへの理解度、深いでしょ」  ここぞとばかりに胸を張る。ま、私も母親から同じ教えを受けた覚えがあるしね。 「ありがとう恭子! 大好き!」  抱き着いてきた。まったく、一つくらいアドバイスを聞けっての。
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