味を占めたな。

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味を占めたな。

 その日の夜御飯、飲み屋にて。 「なあ恭子。刺身は五種より七種の方がいいよな? 折角海沿いの県に来ているんだ。色々楽しまなきゃ」 「お、聞いたことの無い料理がある。甘辛い煮付けだと? 頼んでみようぜ」  翌日の朝御飯、喫茶店にて。 「名物の明太フランスパンだって。大きさを感じさせない軽い食感、か。む、こっちの分厚い卵焼きも見逃せない。頼んで分けっこしよう」  昼御飯、道の駅にて。 「漁師丼ってのがイチオシだって。私はこれにしよう。え? お前、またミニ丼?」  夜御飯、別の居酒屋にて。 「特製角煮とジビエのソーセージ、あと厚揚げと温玉サラダを頼もうか」 「ちょっと待てい!」  私の叫びに首を傾げた。あのさ、と震える声で問い掛ける。 「あんた、残しても私が食べてくれると思って昨日から好き放題頼んでない?」  途端に、バレたか、と舌を出した。 「結局あんた、少食だから私ばっかり食べているのよ!」 「ありがとう」 「太るわ!」  まあまあ、と宥められる。誰のせいだと思っている! 「まったくもう、味を占めるんじゃないわよ。文字通り」 「しょうもな」  あんたにだけは言われたくない!
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