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情報に疎くて当てが外れる。
~九時二十七分~
おかしい、と葵が唸った。何が、とスマホから顔を上げる。住宅地からなかなか抜け出さないので飽きちゃった。
「車内販売が来ない。飯は無くてもお菓子はあるだろ。それで空腹を満たそうと待っているんだが現れないんだ」
当然だ。だって。
「廃止になったわよ」
「何いっ!?」
勢い良く体を起こした。同時にお腹の音が響く。本当に空腹なのね。
「あの、ワゴン車だぞ? 銀色で、足腰と体幹の頑丈なお姉さんが押してきて、ジュースをお酌してくれるあれだぞ?」
どういう認識の仕方をしているのよ。
「廃止されたのか? 旅行に来たなって実感を湧かせてくれる、あの素晴らしい文化が?」
「無くなった」
スマホの画面を見せ付ける。車内販売最終日のニュース記事が表示されている。そんな、と葵は息を飲んだ。
「結構使っていたの?」
「全然。割高だし、お菓子は好きじゃない」
「よくショックを受けられたわね!」
「あの姿を眺めるのが好きだったんだよ。まあ今日は頼りにしていたが。そういう時に限って使えないんだよなぁ」
人生、得てしてそんなものね。車内販売は半永久的に使えないけど。
参ったな、と葵がシートへ身を沈める。腰を痛めるという私のアドバイスは完全に届いていない。知らないからね。
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