転生したから悪魔を召喚して復讐する話

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 僕が腕を振り払うと、巻き付く先輩の身体はあっけなく外れた。運動場倉庫の床は小汚いコンクリなので、図体の割に細く軽い先輩の身体は鈍い音を響かせる。暗夜を頼りなげに照らす懐中電灯は、一瞬で巻き上がった砂ぼこりをキラキラと照らしていた。それが崇高な光のようにも見えるが、古びたゴムや汗の凝固した臭いは無遠慮に鼻を突く。だから、考えることを止めた。  「こんなこと、やっぱり良くないですよ」  めちゃくちゃ当たり前のことを、めちゃくちゃ重大そうに先輩は言う。そういうところが僕は嫌いだった。ヘコヘコと僕の言うことを聞く癖に、時折我に返っては説教をかます。学生ってのは、1つ年齢が上なだけで10レベル以上違うような態度を取られる不思議な所属だ。僕には、関係なかった。  「もう一度、考え直しましょう。他にも方法はあるじゃないですか」  怪我はなさそうだが立ち上がれないようで、すがるような視線を向けられる。安そうな眼鏡は砂埃で視界が悪そうだ。そうやって何も見えないフリをしていればいいのに、今更僕を見ないでほしい。僕だって、これが良いとは思ってないんだ。  でも、これは正しい。  「まだ間に合います」  間に合わねえよ、全然。そもそも間に合ってねえよ。  僕は、何もかも、間に合わなかった。  「とにかくまず、返してきましょう」  その言葉を聞き、僕たちの視線は一か所に吸い寄せられる。僕の足元、超大型のスーツケースだ。準備のために蓋が開いていて、中身は丸見え。直視しないよう努めていたのに、先輩のせいで現実と向き合ってしまった。  僕たちより二回りは小さい少女が、頭から血を流して収まっている。  『転生したから悪魔を召喚して復讐する話』
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