眠れぬ夜の処方箋

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電子レンジが高い音で鳴いて、加熱時間の終了を告げた。 扉を開けてマグカップを覆っていたラップを剥がすと、牛乳独特の香りがふわんと立ちのぼる。 はちみつをひとさじ入れてゆっくりとかき混ぜれば、とろりとした黄金色が白い液体に溶け出ていった。 口先を窄めて風を送ると、さざ波が表面に模様を作る。ミルクは六十度になるように加熱したからそこまで熱いわけではないのに、もう一度風を送って模様を変えてから口へと運んだ。 ほんのりした甘さがじんわりと広がっていくのを感じながら、そういえばいま何時なんだろうと壁掛け時計を見上げた。 短針は十一と十二の間を、長針は八の辺りを指している。十一時四十分か、と時間を認識したにも関わらず、何故かスマホのデジタル表示も見てしまう。当たり前だが同じ時間だった。 カーテンの隙間をわずかに広げて通りを見てみると明かりが消えている家が殆どである。 アスファルトをぼんやりと照らしているのは等間隔に設置された街灯の青白い光。角度を変えて夜空を見上げれば、雲一つなく星が燦然と輝いている。 窓を少しだけ開けると、先程とは違う、しんとした空気が部屋に舞い込んできた。
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