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「寒いね」
「うん」
「くっついていい?」
そんな甘い会話があったのも、一年前の話。
澄んだ空気が連れてきたのは、まだ恋人らしかった頃の記憶のひと欠片。ホットミルクを飲んで温まってリラックスしたはずなのに、温まったのは身体だけで、心の中までは温めてくれなかったらしい。
彼に未練があるわけではないし、よりを戻したいなんて一ミリも思っていない。何というか、空いた隙間を抉じ開けられたような気がした。
懐かしいと思えるほどの時間が経っていないのか、私がまだまだ青いのか。
窓をそっと閉めると空になったマグカップを片づけて、歯みがきを終え、再びベッドにもぐり込んだ。
目をきつく閉じたところで、高ぶった神経が落ち着くはずもない。
枕元に置いたスマホに手を伸ばして、検索画面に《夜 眠れない時》と入力すると、“眠れない時の対処法”“効果的な方法”“気持ちを落ち着かせるには”など、似たような文言が次々と現れていく。
試してすぐに寝られれば、苦労などしないのだ。深いため息を吐きながらバツ印を押した。
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