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〆
「離せというてるじゃろうが!がめつい奴っちゃ、お前は昨日まで見向きもせんかったじゃろう!離せ、離せ〜!」
「いゃぁ〜!いやぁぁぁ〜〜!!」
必死に抵抗していた女性は、結局取り合いに負け品物を奪われてしまい大泣きしてしまった。
こうした光景に見慣れたスタッフは、女性入居者を慰めつついつものお気に入りのぬいぐるみを抱かせて部屋に連れて行った。
古びたぬいぐるみを手にすると彼女は直ぐに泣き止み、さっきの奪い合いなどケロリと忘れてベッドに横たわって、またぬいぐるみに向かって話しかけ始める。
「タクボウ…おりこうねぇ。ネンネンねぇタクボウ…タクボウ…ネンネンねぇ」
「さぁさ、赤ちゃんとお昼寝しましょう。サトコさま」
布団を掛けてもらいながら、ゆっくりと目を閉じ始めるサトコさまと呼ばれた女性は、アルツハイマー型認知症でこの特別養護老人ホーム『桃源郷・さんや』に入ってもうすぐ2年になる。そして先日91歳となったばかりの、淑女であった。
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