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「それって、どういう意味?」
「河西さん、私を疑っているんでしょ。確かに私は送別会に参加した人たちに聞きまくって、有川さんが旦那とべたべたしていた事実を知りました。そのままホテルに行ったんだと確信を持ったのも本当です。でもですね、だからと言って……」
「そ、そうだよね。もちろん、理央を疑っているわけじゃないの。誤解しないでね」
「えー、そこは自分の推理に自信を持ってくださいよ、河西さん」
「はっ?」
「だって、犯人は私なんだし」
笑いながらあっけらかんとそう言う理央の目は、どこか焦点が定まっていなかった。ぞっとして息が止まってしまう。前と同じように周囲の雑音がふっと消え失せ、時間さえも止まった気がした。
「こっそり後を付けて周りに人がいなくなったのを見計らって、いきなりナイフで刺したんですよ。ぐさりとね。でも残念ながら致命傷とまではいかなかったんです。まだ息があったから、浮気を確かめようとひとつずつ爪を剥がして拷問しちゃいました。あれってマジで激痛みたいですね。効果があったのか息も絶え絶えにやっとのことで白状したんですけど、聞いてくださいよ、まったくもう。有川さんの浮気相手は旦那じゃなかったんです。なんとあの晩、庄司部長とホテルに行ってたんですって。いやいや私としたことが間違っちゃったー。まさに痛恨の極みってやつですよ」
「ちょ、ちょっと理央。い、いったい何を言っているの? 急にどうしたのよ。それ、悪い冗談だよね……」
「冗談だったら不謹慎過ぎますよね。でも、本当のことだから」
「ほ、本当だとしたら……」
「どうします?」
「警察に話さなきゃならない」
震える声でやっとの思いでそう言うと、理央は顔からふっと笑みを消した。
「そんなことを河西さんが言うなんて、がっかりだな。せっかく正直に話したのに。でも、断言しますけど河西さんは警察なんかに言ったりしません」
「どうしてそう思うの?」
「なぜなら私は、河西さんの過去の秘密を握っているから。それが表に出たら、とんでもないことが起きるでしょうね」
「秘密ってなによ」
「ミチル、と言ったらわかりますか?」
心臓が止まりそうになった。声すらでない。裏原もそうだったが、どうして理央までもがミチルのことを知っているのだろう。
「そういったわけで、私の邪魔はしないでください。送別会には他にも若い女が参加してましたよね。次の犯人探しでこれから忙しくなるんですから___そう言えば、河西さんもあの場にいましたっけ」
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