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 刃先は茜音の見開いた瞳まで、あとほんの数センチ、いや数ミリのところでぴたりと止まる。  とっさに岩崎が、理央を後ろから羽交い締めしていた。 「放してっ! 放してってばっ!!」 「もうよせっ! ハサミを捨てろっ!」  狂ったように叫び続け暴れる理央を、岩崎は必死に押さえつけている。  理央はかっと目を見開いて茜音を睨みつけたまま、狂ったようにハサミをやみくもに振り回す。シルバーの刃は廊下の照明の光に反射して幾度となく目も眩むような輝きを放った。その迫力と恐怖に、茜音は思わずその場に尻もちをついてしまう。  目撃した男性社員たちが駆け寄ってきて、数人がかりでなんとか理央を取り押さえハサミを奪い取った。男たちにのしかかれて、さすがに動きを封じられ床に這いつくばった理央は真っ赤な目で、座り込んだまま動けない茜音をまっすぐに見つめていた。   「あんただけは違うって、信じてたのに!」  思わぬ言葉に、茜音は「えっ?」と声が漏れる。 「ど、どういうこと? 私を疑っていたんじゃないの?」 「疑ったりするもんか! そんなこと絶対にする人間じゃないと信じてた! 尊敬できる先輩だとずっと思ってた! それなのに裏切りやがって!!」  その目から大粒の涙が幾度となくこぼれ落ち、リノリウムの床を濡らしていく。  茜音はただ呆然と、拘束されてすっかり動かなくなった理央を見つめるしかなかった。 ◇ 「いったい、何が起きているんですか。この会社は」  高山は社内の会議室に入って来るなり、ぶっきらぼうにそう言った。椅子から立ち上がって高山を迎えた茜音と岩崎課長を、いまいましそうに交互に睨みつける。岩崎が「お世話様です。どうぞそちらへお掛けください」と丁寧な口調で言うと、高山はテーブルの向かいの椅子にまるで重役のごとくどっかりと腰掛けた。 「同じ社内で、3日連続で立て続けに事件がおきるなんて、私も長く警察にいるが聞いたことがありません」 「お手間をお掛けして、申し訳ございません」  自分のせいでもないが、それでも岩崎は深々と頭を下げる。高山はいまいましそうに大きく、はあとため息をついた。岩のようなごつい顔が、少しやつれて見える。  駆けつけた警官によって、理央は警察署に連行された。高山が会社に到着したのは、それから1時間後のことだった。 「まあ、おふたりとも座ってください」  促されて茜音と岩崎が腰掛けると、高山は両手を組んで身を乗り出す。 「染谷理央が事件を起こすきっかけとなった、怪文書のメールを拝見できますか?」 「こちらになります」  岩崎が差し出したのはメールと3枚の画像をプリントアウトしたものだ。受け取った高山はそれをじっくりと見つめる。茜音は自分のハダカが高山に見られることに酷く嫌悪感を感じたが、それはやむを得ないことだった。それにハダカは既に社内に広まってしまっている。その事実は茜音を酷く落ち込ませた。  一通りプリントに目を通し終えた高山はそれをテーブルに並べると、改めて茜音の顔を鋭い目で見つめた。
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