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 高山の尋問口調に違和感を感じたのか、岩崎が押しとどめるように口を開いた。 「ちょっと待ってください。河西は誹謗中傷を受けた被害者なんですよ。そのせいで、勘違いした染谷理央がおかしくなってしまった。河西がなにをしたって言うんですか」 「これは失礼。職業柄、なんでも疑ってかかる性格でしてね。実を言うとメール文面のとある不自然な点も気になるんですよ」 「どんな点ですか?」 「なぜ名前が、『茜音』ではなくひらがなの『あかね』なんでしょう。見たところ、書いた本人は特に漢字が苦手と言うわけでもなさそうだ。あえて名前だけひらがなにした理由があるはずです。それは、河西さんしか知らない理由かもしれない」  高山に言われてはっとした。最初に見た時はパニックで気づかなかった。慌ててプリントを見ると確かに名前が全てひらがなになっている。だが茜音にも、それがなぜなのかさっぱり見当もつかなかった。 「わかりません……本当にわからないのです」  茜音がそう言うと高山はふうとひとつ大きくため息を吐いた。 「昨日の夜、私に電話しましたよね。オペレーターが言うには、とても切羽詰まった様子だったようだ。だが、何度折り返しても電話に出ない。家まで訪ねたが留守だった。いったいどんな急ぎの用件だったんですか?」 「それは……」  その先の言葉が出てこない。理央が有川を刺したという告白の件を高山に話すべきか迷う。ミチルのことが、どうしても頭に引っかかっている。警察に話したらミチルが表に出るという、あの言葉が。それに、理央が逮捕された今となっては、彼女自身の自白に任せるべきではないか、とも思ってしまう。  高山はしばらくの間茜音を睨んでいたが、口を閉ざしたまま拉致が開かないと悟ったらしく、やれやれとばかりに首を振った。 「……ところでひとつ、お伝えすることがあります。今朝、有川香澄さんの意識が戻りました」  茜音と岩崎、同時に「えっ」と声を上げた。 「そ、それで、刺した犯人はわかったのでしょうか」  茜音の頭に理央の顔が思い浮かぶ。吉祥寺のカフェで笑みを浮かべながら有川を刺して拷問した経緯を悪びれることもなくすらすらと茜音に話していた、あの理央の復讐に燃えた顔が。 「はい。容疑者は染谷隆弘です」  予想外の名前に唖然とした。染谷ってまさか!? なぜ染谷が。どうして有川を。いや、染谷があんなことをする理由なんてないじゃない。じゃあ、あの理央の話はなんだったの。私に嘘を言った? なんのために?  疑問ばかりが頭のなかを駆け巡り、心が破裂してしまいそうだった。 「り、理央ではなくて……!?」 「なぜ、染谷理央が犯人だと思ったのですか? それは改めて伺う価値がありそうですね。ともかく、有川さんの証言により染谷隆弘が犯人であることは疑いの余地がありません。また、現場で採取された毛髪も染谷隆弘のDNAと一致することが鑑識により確認されました」
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