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 染谷からもミチルの名前が出たことに愕然する。  だがすぐに、裏原がミチルの魂が自分から抜け出し、誰かに乗り移ったと話していたことを思い出した。  あの時、ミチルは染谷へと憑依していたに違いない。 「気づけば俺の心はミチルに完全に乗っ取られ、それに従うしかなかったんだ。まるで操り人形のように」 「いったい……ミチルに何をさせられたの?」 「有川香澄を殺して爪を剥ぎ、拷問したかのように見せかけろと命じられた。実際、会社帰りの有川の後をつけ、人気のない場所でナイフを使って……」  染谷は口籠る。もう思い出したくもないと言わんばかりに。 「血まみれで家に帰った俺を見て理央は驚くと思った。だが実際は違った。理央は俺を見て満面の笑顔で、『はい、よくできました』こう言ったんだ。まるでテストで100点を取った子供を母親が褒めるみたいに。その時悟ったよ。ミチルは分裂して俺から理央にも憑依していたことを」 「ミチルが分裂して理央に……!?」  驚きながらも、はっと気づいた。裏原はミチルが去ったあとも、小さなミチルの塊が残っていたと言っていた。その塊に命じられて浦原は冷たい池に飛び込まざるを得なかった。ミチルは分裂する。そう、アメーバのように。 「なんでこんなことをするんだ、とミチルに尋ねたらこう答えた。すべてはあかねのため、と。なあ、河西、あかねって河西のことだよな? ミチルっていったい何者なんだ! それって河西しか知らないことだろ!」 「そ、それは……私にもわからないの……」 「そんなはずない! ミチルが現れたのは河西のせいじゃないか! おかげで俺は……!!」  激昂して立ち上がった染谷は、いきなり茜音をベッドの上に押し倒し覆いかぶさってきた。抵抗する間もなく、首筋に唇を強引に這わせ荒々しく胸を揉みしだく。必死に抵抗するが、その力は暴力的なまでに強い怒りの塊だった。 「やめて! やめてってばっ!! こんなことするのもミチルの命令なのっ!?」  茜音の怒声に、はっとしたように染谷は動きを止める。力がふっと抜けた。おずおずと気まずそうに立ち上がると、叱られた子供のように俯いた。 「ごめん……ついかっとなっちゃって。ずっと必死に逃げ回っていたから、気持ちが昂っていてたんだ。本当にごめん……」  その、しゅんとした様子に、どこか以前の染谷の面影が垣間見えた。茜音はほっと心を落ち着かせる。 「気持ちはわかるけど……ミチルの命令じゃなければ、今、ミチルはどこにいるの?」 「ミチルは今、眠っている」 「眠ってる?」 「うん。どうしてだかわからないけれど、ミチルはずっと起きて俺を操っているわけじゃないんだ。1日のうち半分くらいは寝ていて、その間だけ俺は自由なんだよ。理央もそうだった」
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