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 理央のなかにいるミチルも起きたり眠ったりしている。  それを聞いて、茜音は思い当たる節があった。  一緒にランチを食べた時、理央は明らかにおかしかった。有川を刺して拷問したと言い、まるで本当に自分が手を下したかのようにその一部始終を克明に茜音に話して聞かせた。そして、このことを警察に言えば、ミチルが表に出るとも。  あの時、理央は意識を奪われミチルに操られていたに違いない。理央が知るはずのないミチルの名前を口にしたのも、それを裏付けている。  一方で、怪文書のメールが送られた直後。理央がハサミを振りかざして茜音を切りつけようとしたあの時。  それは余りにも短絡的、衝動的な行動で、これまでのミチルの周到さとはかけ離れすぎていた。取り押さえられた時に見せた、感情をあらわにしたあの悔し涙さえも、到底ミチルの演技だとは思えない。  つまり、ミチルは眠っていたんだ。  あんなに仲が良かった理央が、本気で茜音に対して怒り狂ったことに改めて気づかされ、心が激しく痛む。  ミチルは理央がもともと持っていた強い嫉妬心。それを無意識に増大させて染谷や有川まで巻き込んで茜音を苦しめようとした。そう思うと震えが止まらなくなった。  もしかするとミチルは、人の弱みにつけ込んで操っているのかも___。  ふと気づき、染谷の目をまっすぐに見つめた。それは、真意を確かめるために。 「染谷はこれまで、私と寝たいと思ったことがある?」 「な、なんだよ。突然」 「いいから正直に答えて。これはミチルを知る上で大事なことなの。入社してからずっと友達だったけど、一度たりとも私に対して性的な感情を持ったことはない?」  染谷は顔をしかめると、気まずそうに目を泳がした。そして、言いづらそうにもごもごと答える。 「……そりゃ俺も男だし、河西と寝たいと思うことだって何度かはあったよ。河西って、いい女だしさ。初めて言うけど、最初に出会った時から、付き合いたいと思ってた。でも河西には彼氏がいるし、二人で飲んでいる時だって、いつも彼氏の話ばっかりしてただろ。俺が付け入る隙はないんだなって……」 「ごめんね、無理に聞いちゃって。でもひとつ、わかったことがある。ミチルは染谷が密かに抱いていたそんな感情を利用したのかも」 「えっ、どういうことだよ?」 「送別会の後、記憶を失った時にはすでに染谷はミチルに操られていた。ミチルは何らかの力を使って私の意識をも奪い、ホテルへと誘い込む。そうしてわざと過ちを犯させた」 「ちょ、ちょっと待てよ。なんでミチルはそんなことを」 「ふたりが裸で寝ている写真を撮らせるためよ。それを怪文書のメールに使うために」 「怪文書のメール? なんのことだ」
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